春の花咲く月夜には
「・・・う、うん。すごくおいしい」

「そっか。よかった」

賀上くんが、ほっとしたような、嬉しそうな顔で笑うから。

私はさらにドキッとなって、グラタン皿からもう一口、ジャガイモをすくって気持ちを落ち着かせるように口へと運んだ。

けれど。

「あ、あつっ!」

冷まさずに口に入れたのは失敗だった。

ジャガイモももちろんだけど、スプーンが思ったよりも熱かった。

口の中が、ヒリヒリしてくる。

「わ、大丈夫ですか?」

「う、うん。あの、ら、らいりょーぶ」

はふはふと口を動かしながら、なんとか彼に返事した。

口元は両手で隠しているけれど、多分、今、絶対に、私はすごくへんな顔をしてると思う。


(は、恥ずかしすぎる・・・!なにやってるんだろう・・・!!)


アラサー女子が慌ててグラタンのジャガイモを口にして、口の中をやけどしてしまったなんて。

意識している男性の前で、絶対にやることじゃない。


(ああ、もう・・・)


ヒリヒリしている口内と、恥ずかしさで泣きたい気持ちになってくる。

と、目の前に、コースターに乗ったコップをずいっと彼が差し出した。

「少し、冷やすといいかも」

「う、うんっ。そうだよね、ありがとう・・・」

ジャガイモをしっかり飲み込んでから、差し出された水を口に含んで喉に流した。

・・・泣きたい、ほんとに。

というか、今すぐに忘れてほしい。

「やけどしました?」

「うん・・・、ちょっとヒリヒリするし」

「あー・・・、痛いですよね、舌やけどすると」

「・・・うん。ごめんね、お見苦しいところを・・・」

本当に・・・子どもみたいな慌てよう。

賀上くんも、呆れているに違いない。

「いや・・・、痛そうだなって思うけど、謝られるようなことは別にないかと」

「・・・でも、落ち着きがなさすぎるというか・・・、食べた瞬間、すごい顔になってた気がするし」

「・・・ああ」

賀上くんが、ふわっと優しい笑顔になった。

思いがけない表情に、私はドキリと胸が鳴る。
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