春の花咲く月夜には
洋食屋さんを後にして、訪れた音楽スタジオは、思っていたよりも本格的な場所だった。

外観や構造は想像していた通りだけれど、室内には、様々な機材やドラムセットまでもが置いてあり、ちょっと感動してしまう。


(でも、そうだよね・・・。こうした機材やドラムが揃ってないと、本格的なバンド練習はできないもんね・・・)


考えてみれば、当たり前のことなのだけど。

慣れない世界であるがゆえ、用意されているひとつひとつのものたちが、私には、とてもめずらしく感じてしまう。

早速、まずは準備をしようということで、私と彼は、ドラム前の空いているスペースにパイプ椅子を置いて座った。

私の、左隣に賀上くん。

少しだけ、斜めに向かい合っている。

足先と、手が触れ合いそうな距離に彼がいて、否が応でも緊張してしまう。

けれど、スタジオでレンタルしておいてもらった新しそうな青いギターを賀上くんから手渡されると、それだけで気分が上がって嬉しくなった。

「じゃあ・・・、はじめましょうか」

まずは、と、賀上くんは、脇に置いていた自分の黒いギターを手に持って、チューニングを開始した。

続いて私のギターのチューニングもチェックして、早速練習に取り掛かる。

はじめに、ギターの構造やピックの持ち方などを聞いた後、ドレミの弾き方や基本のコードを教えてもらった。

「ココとココを左手で押さえて・・・、うん、そうです。で、右手で、上から下に向かって弾いてみてください」

「うん」

彼に言われた通りに左の指を動かして、右手で持ったピックで弦を(はじ)いてみると、ジャーン!と音が鳴って嬉しくなった。

ギターというのは、初めてでも音は鳴らせる楽器のようだけど、自分でそれを体験すると、やっぱり嬉しい。

「実際、音が出ると嬉しいね」

「ですよね。オレも最初弾いた時すげえ感動しました」

「うん」
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