春の花咲く月夜には
続いて、その他のコードも教えてもらい、見よう見まねで指を動かす。

私の指が短いからか、弦を3か所押さえるコードはなかなか至難の業だった。

「うーん・・・、ココとココと・・・、ココ・・・だよね」

左の指を精一杯に動かして、3本の弦をなんとか押さえようとした。

けれど、どうしても1本指が届かない。

「む、無理かも・・・」

「うーん・・・、そうですね。初めてだし、心春さん手ぇ小さいからな・・・」

言いながら、賀上くんが私の左手をじっと見た。

手とはいえ、間近でじっと見られると、なんとも恥ずかしくなってくる。

「・・・・・・、心春さん、ちょっと手ぇ出して」

「え?」

目の前で、賀上くんが私に向かって右手を広げて見せたので、私は、左手をギターから離してぱっと広げた。

すると、彼は私の左の手のひらと、自分の右手を重ね合わせた。

「・・・やっぱ小せぇ」

そう言って、彼が笑った。

その、間近になった彼の笑顔と、触れ合った手の感触に、身体中が熱くなっていく。

心臓がドキドキと速く脈打って、息を止めるように固まっていると、賀上くんは、ハッとなって手を離す。

「・・・、すいません。完全に職権乱用だな、これ・・・」

少し頬を赤くして、賀上くんは視線をそらす。

そして、誤魔化すように額をかくと、すっと椅子から立ち上がる。

「・・・少し、休憩にしましょうか」

「う、うん」

賀上くんは私に向かって小さく頭を下げた後、部屋の外へと出て行った。

私は、ドキドキしていた胸をなでおろし、はあっと小さく息をはく。


(・・・びっくりした・・・)


賀上くんには、以前手を握られたこともあり、手が触れ合ったのは今が初めてというわけじゃない。

けれど、あの時と今では私の中の気持ちが違うし、至近距離で彼の笑顔を目にすると、平常心ではいられなかった。


(・・・私、さっき身体が固まっちゃって・・・、嫌がってると思われたかな・・・)


もちろん、そんなことはないのだけれど。

賀上くんには、私の態度はどう映っていただろう。
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