春の花咲く月夜には
(それに・・・)


「いい感じのとこまでいってる子」と、表現されたことも照れくさい。

落ち着かず、そわそわとした気持ちでいると、後ろから「ねえ」と声をかけられて、私はくるりと振り返る。

すると、亜莉沙ちゃんの睨むような視線と目が合った。

「あなた、この前のライブの時にも会った人よね?」

「・・・、うん」

大きくて、物怖じしない強い()だった。

亜莉沙ちゃんは私よりずっと年下だけど、こちらが怯みそうになる迫力がある。

「・・・・・・、信じられない。こんな地味な人・・・、葉月さんの代わりになるとか有り得ない」

「えっ・・・?」

「あ、亜莉沙っ!」

隣にいた黒ずくめの女の子は、見かねたように亜莉沙ちゃんの腕を引っ張ると、首をぶるぶる横に振り、それ以上の言葉を止めた。

亜莉沙ちゃんは、フンッと大きくそっぽを向くと、そのままスタスタ歩き出し、ショウくんの真後ろについてシャツの裾をグイっとつかんだ。

「お兄ちゃん、もう行くわよ!」

「え?ああ、おー、そろそろ時間だもんな~」

私たちのやりとりは全く目に入っていなかったんだろう、ショウくんは、亜莉沙ちゃんに向かって明るく返事する。

そして私と目が合うと、にやにやしながら頭を下げた。

「じゃ、サクヤ、頑張れよ~!」

「・・・うるせえ。さっさと行けっ」

賀上くんがめんどくさそうに答えるも、ショウくんは気にすることなく笑顔のままで去っていく。

黒ずくめの女の子は、私と賀上くんに何度か頭を下げてから、急いで亜莉沙ちゃんとショウくんの後を追っていた。

「・・・・・・」


(・・・さっきの言葉・・・)


3人の後ろ姿を見送りながら、私は、亜莉沙ちゃんの言葉を頭の中で反芻(はんすう)していた。

詳しいことはなにもわからないけれど、「葉月さん」という人は、きっと賀上くんの元カノなんじゃないかと思う。


(・・・それで、『葉月さんの代わり』って・・・)


「・・・心春さん?」

賀上くんに名前を呼ばれ、私はハッと意識を戻す。

彼は、心配そうに私の顔を覗き込んでいた。

「すいません、ショウが勝手に勘違いして・・・」

「え?あっ、ううん・・・」

賀上くんは、私がショウくんの言動に気を悪くしたんじゃないかと考えているようだった。

けれど、もちろんそうじゃなく。

そうではなくて、私が今、気にかかっていることはーーーーー・・・。

だけど、彼にそれを伝えることはできなくて。

私は、言葉も気持ちもその場で飲み込んだのだった。




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