春の花咲く月夜には
イタリアンのお店を後にして、私たちは、電車に乗るため駅に向かった。

土曜日の、駅へと続く一本道は、カップルやグループなどでそれなりに賑わっていて、明るい声があちらこちらから響いてる。

その人波に乗って駅に着き、改札を入って2人でホームに降り立つと、賀上くんは、左手首にはめた銀の時計に目を向けた。

「すいません、結構遅くなっちゃって」

時刻は、21時半を回ったところ。

私も、さっきホームの時計を確認していた。

「ううん。明日はとくに予定はないし、このぐらいの時間は全然平気。賀上くんこそ大丈夫?明日、バンドの練習とかありそうだけど・・・」

「ああ・・・、けど、午後からなんで。オレも全然・・・、というか、もっと一緒にいたいぐらいだし」

言いながら、賀上くんは照れ隠しのように視線を外す。

私もドキリと照れてしまって、「うん」と短く頷いた。

少しの沈黙。

ドキドキと緊張しながらも、なにか話そうか・・・と悩んでいると、賀上くんから「あの」と言葉を切り出した。

「心春さん、今日も駅からタクシーですか」

「うん。そうだね・・・、そのつもり」

「・・・そっか」

賀上くんは、どこかそわそわとしている様子があった。

なにか迷っているような、けれどまだ、決めかねているような雰囲気だ。

「・・・じゃあ、今日も改札のとこまで送ります。・・・ていうか、いいですか、送って」

「う、うん。ありがとう」

平然と答えてしまったけれど、内心、私はとても嬉しかった。

少しでも、賀上くんと一緒にいれることはとても嬉しい。

そういえば、以前改札まで送ってもらったあの日から、私は彼を意識するようになったんだって、そんなことも思い出す。


(あれからまだ、そんなに時間は経っていないのに・・・、少し懐かしい感じがするな)


ほどなくして、電車がホームの中に入ってきたので、私と彼は順に乗車する。

車内はちょうど座れない、という程度に混んでいたので、私たちは、2人でドアの近くに立っていることにした。
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