君が月に帰るまで
「ありがとうございます、助かりました」
「いえ。引き続き、姫をよろしくお願いします。あの……はじめさま」
「はい?」
「条件の3。覚えておいてください。節度のある態度を希望いたします」

条件の3……。はじめは思い出すとボンっと顔を赤くした。朔はニヤリと笑ってタクシーのドアを閉めて走り去って行った。

朔も自分たちを監視してるのだろうか。はじめはそう思いながら、タクシーを見送った。
家に入ると、向田がパタパタと走ってくる。「おかえりなさいませ。お嬢さま、英語のお勉強があるとかで先にお部屋へ行かれました」

「ああ、うん。わかった。向田さんもう晩ご飯ってできてますか?」

「ええ、きょうはカレーにしました。あとルーを入れるだけです」

「じゃあ、あとやっときます。こう暑いと疲れるでしょう? 少し早いですけど帰って体を休めてください。いつも、ありがとうございます」

「ぼっちゃま……」

向田はもう78になる。元気とはいえど毎日の仕事は大変なことだろう。小さい頃から、忙しい両親にかわって、いつも一緒にいてくれた、家政婦以上の存在。向田には、少しでも長生きしてもらえたらと、はじめは思っていた。

「ではお言葉に甘えて、これで失礼します」
「はい、またよろしくお願いします。そうだ、明日、零が帰ってくるみたいです。そのうち顔出すと思います」

「まあ、零さまがお帰りになるのですね。楽しみにしています」

身支度をすると、向田は挨拶をして帰っていった。ゆめはどうしただろう。
離れに続くドアを開けると、祖父の部屋の襖が開けっぱなしになっている。

「ゆめー? 大丈夫?」

もうウサギの姿になったゆめがちょこんと部屋の真ん中で座っていた。

「何とか間に合ってよかった。朔さんにも会えたし。元気そうだったね」

コクコクとゆめはうなづく。鼻がヒクヒクしてかわいい。

「僕、二階で勉強の続きするね。向田さんはもう帰ったから。ゆっくりして」

ゆめにそういうと、はじめは自室に入って勉強の続きを始めた。
7.鈍い人

地球3日目ゆめside「すげぇな、神か? 仏かお前は」
あははと夏樹は笑い出した。

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