生贄姫完結記念【番外編】
その6、旦那さまは隙あらば妻を甘やかす。
テオドールは控えめにリーリエの部屋のドアをノックし、そっと開ける。
ドアの音に反応して体を起こそうとしたリーリエを制し、テオドールは側に寄って蜂蜜色の髪を撫でてやる。
「申し訳ありません、お出迎えもできずに」
「しなくていいっていつもいってるだろ? 今は自分の体と子どもの事だけ考えて欲しい」
心配そうにそう気遣うテオドールは、
「今日は何か少しでも食べられたか?」
と、優しく尋ねる。
ゆっくり首を振ったリーリエに、だと思ったと苦笑したテオドールは、柑橘系のシャーベットを差し出す。
「本当は体冷やしたらダメなんだろうけど、ちょっとだけな。リアの時もずっとコレ食べてたし」
「……よく、覚えてますね」
クスッと笑ったリーリエは、テオドールに腕を伸ばして起きるのを手伝ってもらう。
リーリエが楽に座れるようにクッションで調整してあげてから、
「ほら、口」
スプーンで掬って差し出される。食べろっと言う事らしい。
「じ、自分で」
「いいから。照れなくても誰も見てねぇよ」
そういう問題じゃない。自分のトキメキゲージが振り切れそうなんだが、と思ったが最愛の推しから食べさせてもらう機会なんてほとんどないので、リーリエは素直に甘えることにした。
「ん、えらい、えらい」
テオドールが持ってきたシャーベットを完食したリーリエの蜂蜜色の髪を撫でてテオドールは微笑む。
その笑顔に見惚れながら、
「ヤバい。テオの甘やかし具合が半端ない。ファンサが過ぎる。毎日のトキメキ過剰摂取で、このままだと出産前にキュン死にしそうです」
あー今日も最愛の推しがかっこいいっと両手で顔を覆ってリーリエは叫ぶ。
最近ダウンしている事が多かったリーリエの体調が今日はだいぶいいらしいとほっとしながらも、テオドールはリーリエの両手を掴んで翡翠色の瞳を覗き込み、
「冗談でも死ぬなんて言わないでくれ」
と真剣な声でリーリエに伝えた。
「ごめん、なさい」
失言だったなと申し訳なさそうにリーリエは謝る。
「リアの時の事、テオはトラウマだものね。正直、テオが嫌がるから私もう2人目は望めないと思ってた」
だいぶ目立ってきた自身のお腹を撫でながらリーリエはそう口にする。
リアの時は安定期に入って以降、魔力遮断のブレスレットを付けていても魔力酔いが酷かった。
リーリエの初めての妊娠は、結婚して初めて両者の思いがすれ違う、戸惑いの多い日々だった。
自分の事だけで精一杯だったリーリエにはテオドールのことを気にかけてあげる余裕はなく、テオドールも日に日に弱っていくリーリエを見ながら、何もしてやれない自分の無力さに苦しんだ。
リアを授かってからの日々を思い出し、リーリエはテオドールに寄りかかる。
「甘えてもいい?」
そう言ったリーリエに当たり前だろと笑ったテオドールは、思い出したようにリーリエの肩にショールをかける。
「どうしたんですか? コレ」
見覚えのない真新しいショールに翡翠色の瞳を大きくしてリーリエは尋ねる。
とても落ち着いた色合いで軽くて暖かく肌触りのいいそれはこれからの季節とても重宝しそうだ。
「いい品が入ったって聞いたからオーダーした。ちなみに色違いもある」
「……また全種類買い占めとかしてないですよね?」
「リィが文句言うから今回は2枚しか買ってない」
「言いたくもなりますよ。マタニティ用のドレス、私絶対着終わりませんからね!」
屋敷どころか部屋から出られない日だって多いのにとため息をつくリーリエの事を抱きしめて、テオドールは蜂蜜色の髪を優しく撫でる。
「これくらいしか、してやれる事ないから」
ごめんなと神妙な面持ちのテオドールに絆されそうになるが、リーリエはぐっと堪えて、
「……いや、結婚してから割とずっとですよ!? 隙あらば私に課金するのやめてください。それ、私の専売特許なんで」
と言い返した。
「リィとリアに貢ぐのは俺の数少ない趣味なんだが」
テオドールはそう苦笑する。善処すると言ってくれたが、この8年改善の兆しは見られないので、多分今後も貢がれるんだろうなとリーリエはテオドールの腕の中で、次回はテオドールにどんなお返しをしようかなとワクワクしながら考えた。
「今回は魔力酔い、だいぶマシだから。魔力遮断のブレスレット、フィーが調整し直してくれたし」
結婚祝いにとフィオナから貰った魔力遮断のブレスレット。2人の魔力差が大きいから念の為にとくれたそれのおかげでリアの時もそして今回もなんとか無事に妊娠の経過を辿っている。
「テオにはいつも感謝してるわ」
「……俺は、リアの時も今回も何もしてやれてない」
妊娠、出産がこんなにも体に負担がかかるもので、普段病気ひとつしないリーリエが、ほとんど何もできなくなるくらい大変な事なのだと知らなかった。
リアの時は本当にリーリエがこのまま死んでしまうのではないかと怖かった。
それなのに自分にできる事など何もなく、ただ側にいるだけで役に立たない自分が腹立たしかった。
「何を言ってるの? 仕事忙しいのに調整して可能な限り私の側にいてくれてるし、今だって毎日目一杯甘やかしてくれてるじゃない」
クスッとリーリエは2人目を妊娠してからの日々を振り返る。
魔力酔いはある程度子どもが大きく育ってからでないと起きないのだが、まだお腹が目立つより前から毎日テオドールに心配され、一切の仕事を禁止された。
少しでも重たいものを持とうものなら、すぐさま取り上げられたし、庭の散歩ですら毎回付き添われた。
毎日心配し過ぎだと言ってもテオドールの過保護さ加減は変わらず、隙あらばリーリエの事を甘やかす。
結婚してから今が一番一緒にいる時間が多いかもしれないと思うくらいで、テオドールを独占できる事が嬉しかった。
リーリエはテオドールの体温を感じながら、彼がここにいる幸せを噛み締める。
テオドールが抱きしめてくれるだけでどれだけ自分が落ち着くのか、多分最愛の夫は知らないだろう。
「リアの時に随分反省したからな。して欲しい事あったらなんでもしてやる」
リーリエの蜂蜜色の髪を掬ってキスを落としたテオドールは、そう言ってリーリエのお腹を撫でる。
2人目を望むリーリエに頷く事ができず、随分間を開けてしまったが、ようやく向き合えるようになったのは愛娘のおかげだ。
「ふふ。最近、リアを授かってからの日々のことをよく思い出すの」
そう言って懐かしそうにリーリエは目を細める。
「初めてで戸惑う事も大変な事も沢山あって、テオとも何度も話し合って。たまに喧嘩したりして。でも、毎日幸せで。そうやって、日々を積み重ねてリアやテオのおかげで、私は母親になったのね」
この子ともそんな風に過ごしていきたいと微笑むリーリエにテオドールは、そうだなと頷く。
「俺も最近、リアが小さかった頃の事をよく思い出す。リアが生まれた時はこんなに小さくて、大丈夫かって心配だったが、俺たちの娘はあっという間に大きくなっていくな」
テオドールはリアに初めてパパと呼ばれた日の事を思い出す。たどたどしく歩いて転びそうになったリアを抱き止めたとき、パパと呼ばれ、笑った我が子を見た瞬間、この子のためならなんでもしてあげたいと思うようになった。
そんな小さかった娘があっという間に学園に入学する歳になり、もうすぐ7つを迎える。公爵令嬢としての振る舞いを身につけようとしている様を見ると感慨深く、反面もっと子どものままでいて欲しいと思う。
「とりあえず、ゼノは出禁にしようと思う」
「テオ、顔が怖いです。あとそんな事したらリアに嫌われますよ」
割とガチなトーンでそう言ったテオドールに呆れたようにリーリエは笑う。
「障害があるほど燃えますよ。誰の子だと思っているのですか?」
あなた、私と結婚するために自分がした事忘れました? と苦笑気味にテオドールを嗜める。
「本当に16で嫁に行くとか言い出したらどうする気だ!? 第一ゼノは歳離れ過ぎだろ」
「年齢でダメ出しするなら、さっさとルドルフ様の許嫁にしてしまえばいいのでは? ルゥからずっと打診されているでしょう?」
「王家になんか絶対やらん」
「じゃあ政略結婚で他国に出されちゃうかもしれませんよ?」
今のところ王家には姫君いませんし、とリーリエは可能性の話をするが、
「リアには政略結婚させたくない。というか嫁に出したくない」
テオドールはそう本音を吐露した。
「あーハイハイ。知ってました。あんまりそれ全面に出すと家出されますよ。私みたいに」
家出、の一言にテオドールは固まり、リーリエをマジマジと見る。
本当にリアに関しては余裕ないなと、父親というものが分からないと悩みながら娘と向き合って関係を築いてきたテオドールの日々を思ってリーリエは微笑ましそうに笑う。
「私初婚18ですからね? 覚悟しといた方がいいですよ、パパ」
いつまでもパパが世界一じゃないのよ? と娘を溺愛するテオドールにリーリエは苦笑気味に釘を刺しておいた。
まぁ、リアが誰と結婚することになってもきっとテオドールと揉めるのだろうけれど、それはまだもう少し先の話だ。
「今度は男の子かな、女の子かな。テオに似てるといいなぁ」
「どっちでも、無事に生まれてきてくれて、リィが元気ならそれでいい」
そう言ってリーリエの額にキスしたテオドールに、
「名前の候補、今度もテオが考えてね」
これから先の賑やかな日々を思ってリーリエは嬉しそうに笑い、そう言った。
予定日より早い満月の夜にテオドールによく似た顔の銀糸、碧眼の男女の双子が生まれ、リーリエが魔力酔い後のリハビリに励みながらテオドールやリアと一緒に双子の育児に奮闘するのは数ヶ月後のお話し。
ドアの音に反応して体を起こそうとしたリーリエを制し、テオドールは側に寄って蜂蜜色の髪を撫でてやる。
「申し訳ありません、お出迎えもできずに」
「しなくていいっていつもいってるだろ? 今は自分の体と子どもの事だけ考えて欲しい」
心配そうにそう気遣うテオドールは、
「今日は何か少しでも食べられたか?」
と、優しく尋ねる。
ゆっくり首を振ったリーリエに、だと思ったと苦笑したテオドールは、柑橘系のシャーベットを差し出す。
「本当は体冷やしたらダメなんだろうけど、ちょっとだけな。リアの時もずっとコレ食べてたし」
「……よく、覚えてますね」
クスッと笑ったリーリエは、テオドールに腕を伸ばして起きるのを手伝ってもらう。
リーリエが楽に座れるようにクッションで調整してあげてから、
「ほら、口」
スプーンで掬って差し出される。食べろっと言う事らしい。
「じ、自分で」
「いいから。照れなくても誰も見てねぇよ」
そういう問題じゃない。自分のトキメキゲージが振り切れそうなんだが、と思ったが最愛の推しから食べさせてもらう機会なんてほとんどないので、リーリエは素直に甘えることにした。
「ん、えらい、えらい」
テオドールが持ってきたシャーベットを完食したリーリエの蜂蜜色の髪を撫でてテオドールは微笑む。
その笑顔に見惚れながら、
「ヤバい。テオの甘やかし具合が半端ない。ファンサが過ぎる。毎日のトキメキ過剰摂取で、このままだと出産前にキュン死にしそうです」
あー今日も最愛の推しがかっこいいっと両手で顔を覆ってリーリエは叫ぶ。
最近ダウンしている事が多かったリーリエの体調が今日はだいぶいいらしいとほっとしながらも、テオドールはリーリエの両手を掴んで翡翠色の瞳を覗き込み、
「冗談でも死ぬなんて言わないでくれ」
と真剣な声でリーリエに伝えた。
「ごめん、なさい」
失言だったなと申し訳なさそうにリーリエは謝る。
「リアの時の事、テオはトラウマだものね。正直、テオが嫌がるから私もう2人目は望めないと思ってた」
だいぶ目立ってきた自身のお腹を撫でながらリーリエはそう口にする。
リアの時は安定期に入って以降、魔力遮断のブレスレットを付けていても魔力酔いが酷かった。
リーリエの初めての妊娠は、結婚して初めて両者の思いがすれ違う、戸惑いの多い日々だった。
自分の事だけで精一杯だったリーリエにはテオドールのことを気にかけてあげる余裕はなく、テオドールも日に日に弱っていくリーリエを見ながら、何もしてやれない自分の無力さに苦しんだ。
リアを授かってからの日々を思い出し、リーリエはテオドールに寄りかかる。
「甘えてもいい?」
そう言ったリーリエに当たり前だろと笑ったテオドールは、思い出したようにリーリエの肩にショールをかける。
「どうしたんですか? コレ」
見覚えのない真新しいショールに翡翠色の瞳を大きくしてリーリエは尋ねる。
とても落ち着いた色合いで軽くて暖かく肌触りのいいそれはこれからの季節とても重宝しそうだ。
「いい品が入ったって聞いたからオーダーした。ちなみに色違いもある」
「……また全種類買い占めとかしてないですよね?」
「リィが文句言うから今回は2枚しか買ってない」
「言いたくもなりますよ。マタニティ用のドレス、私絶対着終わりませんからね!」
屋敷どころか部屋から出られない日だって多いのにとため息をつくリーリエの事を抱きしめて、テオドールは蜂蜜色の髪を優しく撫でる。
「これくらいしか、してやれる事ないから」
ごめんなと神妙な面持ちのテオドールに絆されそうになるが、リーリエはぐっと堪えて、
「……いや、結婚してから割とずっとですよ!? 隙あらば私に課金するのやめてください。それ、私の専売特許なんで」
と言い返した。
「リィとリアに貢ぐのは俺の数少ない趣味なんだが」
テオドールはそう苦笑する。善処すると言ってくれたが、この8年改善の兆しは見られないので、多分今後も貢がれるんだろうなとリーリエはテオドールの腕の中で、次回はテオドールにどんなお返しをしようかなとワクワクしながら考えた。
「今回は魔力酔い、だいぶマシだから。魔力遮断のブレスレット、フィーが調整し直してくれたし」
結婚祝いにとフィオナから貰った魔力遮断のブレスレット。2人の魔力差が大きいから念の為にとくれたそれのおかげでリアの時もそして今回もなんとか無事に妊娠の経過を辿っている。
「テオにはいつも感謝してるわ」
「……俺は、リアの時も今回も何もしてやれてない」
妊娠、出産がこんなにも体に負担がかかるもので、普段病気ひとつしないリーリエが、ほとんど何もできなくなるくらい大変な事なのだと知らなかった。
リアの時は本当にリーリエがこのまま死んでしまうのではないかと怖かった。
それなのに自分にできる事など何もなく、ただ側にいるだけで役に立たない自分が腹立たしかった。
「何を言ってるの? 仕事忙しいのに調整して可能な限り私の側にいてくれてるし、今だって毎日目一杯甘やかしてくれてるじゃない」
クスッとリーリエは2人目を妊娠してからの日々を振り返る。
魔力酔いはある程度子どもが大きく育ってからでないと起きないのだが、まだお腹が目立つより前から毎日テオドールに心配され、一切の仕事を禁止された。
少しでも重たいものを持とうものなら、すぐさま取り上げられたし、庭の散歩ですら毎回付き添われた。
毎日心配し過ぎだと言ってもテオドールの過保護さ加減は変わらず、隙あらばリーリエの事を甘やかす。
結婚してから今が一番一緒にいる時間が多いかもしれないと思うくらいで、テオドールを独占できる事が嬉しかった。
リーリエはテオドールの体温を感じながら、彼がここにいる幸せを噛み締める。
テオドールが抱きしめてくれるだけでどれだけ自分が落ち着くのか、多分最愛の夫は知らないだろう。
「リアの時に随分反省したからな。して欲しい事あったらなんでもしてやる」
リーリエの蜂蜜色の髪を掬ってキスを落としたテオドールは、そう言ってリーリエのお腹を撫でる。
2人目を望むリーリエに頷く事ができず、随分間を開けてしまったが、ようやく向き合えるようになったのは愛娘のおかげだ。
「ふふ。最近、リアを授かってからの日々のことをよく思い出すの」
そう言って懐かしそうにリーリエは目を細める。
「初めてで戸惑う事も大変な事も沢山あって、テオとも何度も話し合って。たまに喧嘩したりして。でも、毎日幸せで。そうやって、日々を積み重ねてリアやテオのおかげで、私は母親になったのね」
この子ともそんな風に過ごしていきたいと微笑むリーリエにテオドールは、そうだなと頷く。
「俺も最近、リアが小さかった頃の事をよく思い出す。リアが生まれた時はこんなに小さくて、大丈夫かって心配だったが、俺たちの娘はあっという間に大きくなっていくな」
テオドールはリアに初めてパパと呼ばれた日の事を思い出す。たどたどしく歩いて転びそうになったリアを抱き止めたとき、パパと呼ばれ、笑った我が子を見た瞬間、この子のためならなんでもしてあげたいと思うようになった。
そんな小さかった娘があっという間に学園に入学する歳になり、もうすぐ7つを迎える。公爵令嬢としての振る舞いを身につけようとしている様を見ると感慨深く、反面もっと子どものままでいて欲しいと思う。
「とりあえず、ゼノは出禁にしようと思う」
「テオ、顔が怖いです。あとそんな事したらリアに嫌われますよ」
割とガチなトーンでそう言ったテオドールに呆れたようにリーリエは笑う。
「障害があるほど燃えますよ。誰の子だと思っているのですか?」
あなた、私と結婚するために自分がした事忘れました? と苦笑気味にテオドールを嗜める。
「本当に16で嫁に行くとか言い出したらどうする気だ!? 第一ゼノは歳離れ過ぎだろ」
「年齢でダメ出しするなら、さっさとルドルフ様の許嫁にしてしまえばいいのでは? ルゥからずっと打診されているでしょう?」
「王家になんか絶対やらん」
「じゃあ政略結婚で他国に出されちゃうかもしれませんよ?」
今のところ王家には姫君いませんし、とリーリエは可能性の話をするが、
「リアには政略結婚させたくない。というか嫁に出したくない」
テオドールはそう本音を吐露した。
「あーハイハイ。知ってました。あんまりそれ全面に出すと家出されますよ。私みたいに」
家出、の一言にテオドールは固まり、リーリエをマジマジと見る。
本当にリアに関しては余裕ないなと、父親というものが分からないと悩みながら娘と向き合って関係を築いてきたテオドールの日々を思ってリーリエは微笑ましそうに笑う。
「私初婚18ですからね? 覚悟しといた方がいいですよ、パパ」
いつまでもパパが世界一じゃないのよ? と娘を溺愛するテオドールにリーリエは苦笑気味に釘を刺しておいた。
まぁ、リアが誰と結婚することになってもきっとテオドールと揉めるのだろうけれど、それはまだもう少し先の話だ。
「今度は男の子かな、女の子かな。テオに似てるといいなぁ」
「どっちでも、無事に生まれてきてくれて、リィが元気ならそれでいい」
そう言ってリーリエの額にキスしたテオドールに、
「名前の候補、今度もテオが考えてね」
これから先の賑やかな日々を思ってリーリエは嬉しそうに笑い、そう言った。
予定日より早い満月の夜にテオドールによく似た顔の銀糸、碧眼の男女の双子が生まれ、リーリエが魔力酔い後のリハビリに励みながらテオドールやリアと一緒に双子の育児に奮闘するのは数ヶ月後のお話し。