秘密の出産だったはずなのに救命医の彼に見つけられてしまいました
『でも斗真は信じてないんじゃない? 私たちの職業柄、誕生日から妊娠した日を予測できるし』

「そうだね。でもとっさに違うって言ったの。あの頃の気持ちが思い出されて、なんだか胸の奥がもやもやして。連絡をどれだけ待ってもくれなかったのは斗真だもん。それなのに彼の子供をこっそり育てているなんてどう思われるか分からなかったし」

『でもその後も来て、よりを戻したいと言われたんだよね? 紗良ちゃんがいるのもわかってて言ってるんだよね?』

「うん。これは紗良がいるから責任を取るって意味だと思う? それとも……」

『優里はどうだったらいい? 今の斗真を見てどう思った?』

今の斗真は前にも増して輝いてた。救急外来で見た彼は自信に満ち溢れていた。相当努力してきたんだと思う。
でもこの前一緒に過ごした時間は前と同じで穏やかで、懐かしく感じた。
あれから4年。長いのか短いのか分からない。けど私の4年は紗良と共にあった。同じ4年でも彼の過ごしてきた時間とは違う。悲しいが今さらまたよりを戻しても前と同じにはならないと思ってしまう自分がいた。

「斗真は医者としての自信に満ち溢れてた。もう私の知ってる彼とは違うのかもしれないね」

『そうだね。斗真はこの4年、ものすごく努力してたよ。鬼気迫るものがあった』

一緒の病院で働く未来だからこそ知る話。
今まで彼女から斗真の話を聞くことはなかった。私も知りたくなかった。たとえ些細な話でも彼の話を聞くだけで心の安定が保てなくなったと思う。

『斗真は外科で経験を積んで救命医になったの。すごく評判がいい。的確な判断と冷静な対応。私の知ってる学生の頃の斗真はもういなくて、冷静沈着なの』

「冷静沈着?」

『うん。救命医としては悪くないよ。でも昔みたいなフレンドリーな感じや柔らかい雰囲気が少し違う。優里が消えてからだと思うよ。斗真にも相当なダメージだったんだと思う』

そうなの?
この前会った時の斗真は昔のままのイメージで医者をしてた。でも普段は違うの?
冷静沈着ってイメージではなく温厚、穏やか、人当たりがいいって思ってた。
この4年で斗真は変わってしまったの?
ううん、私が変えてしまったの?

『ねぇ、優里。斗真は本気で探してたんだよ。あの頃何度も連絡がないかと尋ねられた。その度に伝えるべきなんじゃないかって思ってた。でも優里が決めたことに私が勝手に口を出すべきじゃないと、斗真には知らないって言い続けてきた』

「うん……」

『でも正直なところ私も少し後悔してる。あんなに必死な斗真を見てたのに優里に伝えなかった。一時の感情じゃなくて、話し合いをすべきだったんじゃないかって葛藤があった。そしたらふたり、ううん3人の未来は変わっていたかもしれない』

未来の声が涙声に変わってきた。
彼女にとってもこの4年は色々と悩ませてきたのだろう。
私が何も言えずにいると、

『ごめんね。私が仲を取り持ってあげてればよかったね。結果はどうあれ話し合うべきだったよね。そうしたらこんなに拗れなかったのかもしれない』

「未来が謝ることなんてない。全て決めたのは私だからね。それを一番に支えてくれたのが未来だよ。感謝してる」

『ありがとう。でもやっぱり、と何度も考えていたの。だから偶然とは言え斗真と優里が再会したと聞いて嬉しい。どんな形であれ、話ができて良かった』

未来が泣くなんて初めて。そこまで彼女を悩ませていたのだろうか。
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