再会した敏腕救命医に娘ごと愛し守られています
うどんを食べ終わると紗良はいつものようにウトウトし始めた。
私はバッグから抱っこ紐を取り出すと紗良を抱き上げようとした。
すると斗真は眠そうな紗良に声をかけた。

「俺が抱っこしてあげるよ」

すると紗良は斗真に手を伸ばしていた。
驚いていると彼は抱っこ紐のやり方を教えて、と小さな声で言ってきた。
斗真がやるの? と聞くと楽しげに頷く。
ベルトを長くして斗真につけると紗良を中に入れてあげた。
斗真が少しトントンすると紗良はすぐに眠ってしまった。
もう3歳の紗良は私が抱っこするとかなり大きく、重たく、やっと抱きかかえているが彼が抱くと小さく見えてしまう。

「さ、これからは優里の時間。一緒にぶらぶらしよう」

そう言うと私の手を握り、歩き始めた。
久しぶりにのんびり、そして紗良を抱き抱えていない買い物に嬉しくなってしまった。

「欲しいものある?」

「ない。でもぶらぶらしたい」

「変わらないな」

クスッと笑う彼の顔にキュンとなった。この顔が好きだったなぁと思い出した。

「斗真は? 何か欲しい?」

「ないな」

「そっか」

そういえば斗真もさほど物欲がなく、けれど本当に欲しいものは値段ではなく買っていた。
前のようにただお店を見ながらぶらぶら歩いて回る、それだけで幸せだった頃に戻ったよう。

「斗真、明日は日勤?」

「いや、休み」

「連休なの?」

「……いや。今日は明け」

当直明け?何気なく聞いただけだったが驚いた。
だから朝なんとなく顔色が悪かったのかと今さら理解した。本来なら家に帰って寝ないといけないはず。なんでこんなことしてるの? と言いたい反面、彼の行動も理解できてしまう。

「帰ろう」

「いや、大丈夫」

「無理しなくていいから。きちんと寝ないとダメだよ。身体が資本の仕事なんだからね。医者の不養生って言われないよう自己管理をきちんとしないと」

私が強く言うと、苦笑いを浮かべていた。
困ったように頭をかき、

「でも土日じゃないと優里に会えないだろう? それにいつなら家にいるのかも分からないからとりあえず今日来てみたんだ。そしたら家にいたから嬉しくなって誘い出したくなった」
< 62 / 74 >

この作品をシェア

pagetop