轍(わだち)〜その恋はお膳立てありき?
「わーい。滋子、やっぱりハー○ンダッツのマカダミアンナッツ買ってきてくれてたんだ!」

冷凍庫のドアを開け、清乃は嬉しそうにマカダミアンナッツ味のアイスクリームを手にしてリビングルームに戻ってきた。

「あんた、それがなければ何も食べないでひたすら寝通すでしょ?」

そう、面倒臭がり屋の清乃は、纏まった休日があると、食事すらも面倒臭がり、気に入ったアイスが手元になければ3日でもゴロゴロと寝ていることがある。

「だって面倒臭···」

「だってもクソもないでしょ?全く、あんたも狼犬《ウルハイ》も、絵師ってやつはみんな衣食住に頓着しないのかしら」

「狼犬《ウルハイ》さんって、そんななの?意外」

アイスクリームをスプーンでホジボシしながら言う清乃に、

「あいつも、あんたには言われたくないだろうよ」

と、滋子は呆れたように呟いた。

しかし、すぐに気を取り直して

「で?タカシ氏の印象は?昨日ホテルに一緒に泊まったんでしょ?なんか美味しい話聞かせなよ」

と、清乃の隣に腰掛け、やや前のめりに問いかける滋子。

「美味しい話って···大体は人斬り···いや、春日さんに聞いてるんでしょ?高級和牛料理店でバカ食いして、寝落ちして、挙句の果てに俺様イケメンの同情をかって、一宿一飯の恩義にあずかったこと」

「流石にホテルでの一室内での出来事までは把握してないわよ。若い男女が二人きりだもの。何もなかったってことはないわよね」

「うーん、抱き枕の代わりにはされたけど、あの人、滋子の元カレなんでしょう?それ以上は何もされなかったよ。」

パクパクとアイスクリームを食べ続けながら答える清乃は通常運転だ。

「抱き枕?元彼?何よそれ、まさか、タカシが言ったわけ?」

「ううん、私の妄想」

ハア、とため息を繰り返す滋子は、不機嫌なような、諦めたような態度で、ドサリと背中をソファに埋めた。

「タカシは私の元カレじゃないわ」

「あー、現在進行形的な?」

「馬鹿、今カレ貸すほど余裕ないわ」

「ダヨネ〜、滋子、嫉妬深いもんね」

フンフンと、頷く清乃はどこまでが本気かわからない。

だからこそ、オン・マイ・ウェイな滋子の親友でいられるのだと、お互いに把握していた。

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