エリート御曹司は極秘出産した清純ママを一途な愛で逃がさない
そう考えて静止していた私の顔を、清都さんが覗き込む。

「大丈夫? 疲れただろう」
「いえ、大丈夫です。一緒に働いていた頃を思い出していて」
「懐かしいな。お互い新人同士で今より若かった」

清都さんが優しく睫毛を伏せる。
その表情を胸に焼きつけたくて、私は一心に見つめた。

「はい……。清都さんがアメリカに行って二年間も会えなくなるなんて、実感が湧かないです」

急に寂しさに襲われて、自分でも戸惑った。

職場でともに過ごした日々が、アルバムのページをめくるように頭の中に浮かんでは、私の胸をギュッと締めつける。

「寂しくなるな」

低く耳なじむ声で言い、清都さんは私の頭をポンとなでた。
うつむいていた私は反射的に顔を上げ、真横の彼を見る。

手を伸ばせば届く距離にある、眉を少し下げた清都さんの切なげな眼差しに、どくんと心臓が強く打った。

「あ、すまない。勝手に触れて。嫌だった?」

数秒間見つめ合ったのち、清都さんは私の頭からパッと手を離した。

「い、いえ」

顔がカッと熱くなる。
サウナにでもいるみたいに、一気に体中の血流が増す。

「お近くで見ても、本当に素敵だなって、思って」

……って私、酔いに任せてなにを口走っているの⁉

なんとか頬の火照りを冷まそうと手で扇ぎながら、激しく後悔したのもつかの間。

「参ったな」

私の頭をなでた手を依然宙に浮かせたまま、清都さんは困惑した調子でつぶやいた。

「俺もしかして、試されてる?」

そしてその手で唇を軽く覆い、くぐもった声で言う。

「え? あ、あの」

試す……?
言っている意味がよくわからなくて困る。

ただ、先ほどまでの空気から一変したのは、恋愛経験のない鈍感な私にもわかった。
甘酸っぱい雰囲気に、心臓がトクトクと駆け足になる。

「映美は、好きな人はいないのか?」

意識してしまって、ちらりとこちらを見る清都さんと目が合わせられない。

「わ、私は特には……」

改まった質問に、恥ずかしくも声が上ずった。

「そうか。俺は失恋したばかりなんだ」

清都さんは、眉根を寄せて笑う。

清都さんほどの人が失恋するなんて、なんだか信じられなかった。

それに、なぜだろう。
胸の奥を針で一刺しされたように、ちくりと痛くなる。
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