エリート御曹司は極秘出産した清純ママを一途な愛で逃がさない
長かった一日の勤務を終えた午後九時過ぎ。

よそよそしい雰囲気からようやく脱し、私はふうっと息を吐いて閉店した複合商業施設を出る。

歩き出すと、ちょうどテラス席が面している表通りの街灯の下で、背後から人が近づいてくる気配を感じた。

「森名映美さん」

聞き覚えのある声に、私は息が止まるほど驚く。

私が振り返るよりも早く、相手が正面に回り込んで目の前に立ちはだかった。

「ちょっとお話いいかしら?」
「えっ⁉」

乃愛さんだ。
こんな時間まで、私を待っていたのだろうか。

「あなた、本当に清都のフィアンセなの?」

まだ状況が飲み込めず、目をしばたたかせて静止する私を、乃愛さんが強い眼力で見つめる。

「なんだか信じられないのよね。アメリカに行く前に私との縁談を断りたくて、その場しのぎで選ばれた恋人、とかじゃないわよね?」

ほ、ほぼ合ってる……。
緊張でゴクリと喉が鳴った。

乃愛さんの美しく端正な顔立ちには迫力があり、私は思わず後ずさりした。

「清都にはずっと思い続けてる人がいるはずなのよ。それって、あなたなの?」

両腕を組み、乃愛さんが疑うように目をすがめる。

"ずっと思い続けている人"?

心の中で復唱して、私はうつむいた。

「少し前にね、清都から私とは結婚できないって言われたときに理由を聞いたの。そしたら、同じ職場のとても素敵な女性にずっと前から恋してるんだって。その彼女に会えなくなる前にアプローチするって言ってたわ」

視線を下降させて狼狽する私に、乃愛さんはため息交じりに説明した。

会えなくなる前にアプローチする……?

『そうか。俺は失恋したばかりなんだ』

ホテルでの清都さんの一言が蘇る。
アプローチして、振られたということだろうか。

「ま、本当の恋人でもそうじゃなくても、どっちでもいいけど。ただちょっと、清都の彼女にしては普通っぽいな〜って思ってね!」

表情を硬直させる私には構わずに、邪気のない笑顔で乃愛さんは話し続ける。

「私もまだ結婚するつもりなんてないし、ただの興味本位。おば様から正式に破断にしたいと伝えられたから、兄貴みたいな存在の清都が恋い焦がれるのはどんな女性なのか、気になって探りに来ちゃった」

乃愛さんはいたずらっ子みたいに楽しそうに話したけれど、私の心は全然楽しくなんかなく、凍えるようにキンと冷たくなった。

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