エリート御曹司は極秘出産した清純ママを一途な愛で逃がさない
それから数日が経ち、仕事に身が入らず、夜もあまり穏やかに休めない日が続き、私は鬱屈としていた。

清都さんからは相変わらず連絡がない。
店舗に来た後任の事業部長から聞いたのだけど、アメリカ行きが何日か早まったそうで、おそらく多忙なのだろう。私からも連絡は控えていた。

夜ひとりになると、私は亜紀さんを忘れるために清都さんに利用されたのではないか、という疑念に体が縛られ、身動きができないほど苦しくなる。

けれど、あの清都さんがそんなことするだろうか。
長い付き合いがあるから、優しくて誠実なのは近くで見てよく知っている。

亜紀さんへの気持ちにはもう区切りをつけて、少しでも私自身を見てくれていたんじゃ……?

そこまで考えて、目をキツく閉じると私はかぶりを振った。

期待しては、望みなんてないのにと自戒しての繰り返し。

答えのない考えや揺さぶられる感情がコロコロと変化し、私は精神的に疲弊し、消耗していた。

今日は帰宅したらゆっくり湯船に浸かろう。
仕事中にそう計画して、考え過ぎて重たい頭をもたげ、玄関のドアを開けた矢先だった。

「映美! どうしてお母さんに話してくれなかったの⁉」

母の勢いに、私は面食らって閉口する。

鳩が豆鉄砲を食らった顔をした娘を前に、母はもどかしそうに続ける。

「今日ね、美容院に亜紀さんが来たのよ、カフェバー開店のお知らせの紙を持って。そしたら映美が結婚するって言うじゃない!」

甲高い母の声が、狭い実家の玄関に反響した。

「え……」

背中がひやりと冷たくなった。
マズいことになった、という警戒の声が、頭の中に鳴り響く。

「お母さん落ち着いて。違うの、それはね」
「お母さん、うれしくて早速常連さんに話しちゃった! ほら、覚えてる? 近所で呉服店をやってる長谷(はせ)さん!」

胸もとで両手を合わせた母は、私の話に耳を傾けるつもりなど毛頭ないとでもいうように、早口になった。

「そしたらね、昔から知ってる映美ちゃんがお嫁に行くんだから、打ち掛けをぜひうちで見繕いたいっておっしゃってくださって!」
「いや、ちょ、ちょっと待って」
「いつでも見に来てくださいね、って。ヘアメイクはお母さんに任せてね。長谷さんと、どんな感じが映美に似合うかしらって話で盛り上がっちゃって!」

母は容易く話の接ぎ穂をさらう。
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