エリート御曹司は極秘出産した清純ママを一途な愛で逃がさない
ホッとしたのも束の間、胸をチクチクと針で刺されたような痛みが走った。

「できればアメリカに行く前に、ゆっくり会って話したい。時間を調整するから」

私の顔を覗き込み、清都さんがやわらかく微笑む。
うれしいのに、素直に"はい"と返事ができない。

会うのは、偽恋人としてだよね。話って、今後のことだよね?

声にならない言葉が、私の頭の中でエコーがかかって響く。

「わ、私……」

続けるのはもう無理だ。

母を裏切って傷つけ、同僚をも騙し、他人から悪意を向けられるような偽の関係なんて、継続しない方がいいに決まっている。

辛くてもう、後ろめたかった。

「……私、もう会えません」

ようやっと聞き取れるくらいのか細い声でつぶやく。座っているのに足がすくんだ。

けれどもなによりも、清都さんへの叶わない思いと私自身がどう向き合っていいのかわからないから。

「偽恋人として清都さんに会うことは、できません」

しばらく沈黙が流れる。
不穏な空気が私たちの間に滞留している。

「映美」

硬直状態を打ち破ったのは、清都さんの穏やかな声音だった。

「悪かった。こんなふうにきみを傷つけるなんて思いもしなくて」

座ったまま頭を垂れる私の肩に、そっと手のひらを乗せる。

「今後は一切こういった事態にならないよう、俺も気をつける。責任を取って、最後まできみを守らせてほしい」
「でも……」

言いかけて、顔を上げた。
私を捉える清都さんの真剣な双眸が揺れて見える。
決していい加減ではなく、真摯な態度であることはじゅうぶんに伝わった。

それでも、私にはもう無理だった。

清都さんの心は私には向いていない、一方通行な恋心だと知っているから。一緒にいるだけで、胸が張り裂けそうなほど苦しい。
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