エリート御曹司は極秘出産した清純ママを一途な愛で逃がさない
瞬きをすると、目に溜まっていた涙が頬を伝いテーブルに落ちた。
それを見て、清都さんが目を瞠る。

「それでも私はもうこれ以上、偽恋人を続けられません」

声が震えないように、喉にグッと力を込めた。

再び無音に支配され、私は見つめ合っているのが耐えきれなくて目をそらす。
肩に乗せられた清都さんの手がピクリと微動した。

「……そうか」

怒っているのか、呆れているのか判断しかねる低い声に、背筋がひやりと冷たくなる。

「わかった」

清都さんは渋面を作りながらも、ため息交じりでうなずいた。

「本当にすまなかった」

私の肩に置いた手を離し、踵を返す。
スローで一歩踏み出すと、出入り口に向かって靴音を響かせた。

物理的にも、心だってもう、遠く離れて手が届かない。

清都さんの姿が見えなくなると、私は深くうつむいて、声を押し殺して静かに泣いた。
太ももの上で握った手のひらに爪が食い込む。
嗚咽を堪え、肩が震えた。

『俺の目には、ただただかわいい恋人に映ってる』

忘れたくない。
清都さんも私には、素敵な恋人に映っていた。

だから謝罪なんてしてほしくなかった。

『ああ。映美が俺の恋人でよかった』

私は偽物ではない、本物の恋人になりたかった。

鼓膜に甘い言葉が蘇り、先ほどの険しい表情に上書きされる前の、穏やかな笑顔の清都さんが目に浮かぶ。

好きだった。大好きだったから……。
こんなあっさり別れたくなかった。

自分の気持ちを伝えればよかったという後悔は、渡米前に混乱させて迷惑をかけるだけと自分に言い聞かせ、振り払う。

これでよかったのだと自分を納得させるしか、汲めども尽きない涙を止める術がなかった。



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