先生の愛が激重すぎる件
「はい。行きましょう。お腹ペコペコで倒れそうです」

 駅前のロータリーでタクシーに乗ると東照宮の近くで降りる。そこから歩いて人気だという地元食材を扱うレストランへ向かった。昼の時間を過ぎていたこともあり、すぐに中へ入れた。
 
 席に着くと私たちはお勧めの湯波の懐石料理を注文する。

「野原さん。今日は来てくれてありがとう」
 
 温かいお茶をすすりながら改めて野原さんへお礼を伝えた。

「こちらこそ、お誘いありがとうございました。連休は暇を持てあますところでした。でも、私が来ちゃってよかったんですか?」

「いいのいいの」

「荒木先生、夜中に慌てて帰っていったのに……結局旅行は断念したんですね」

「夜中に帰った?」

「はい。なんだかずっとスマホ気にしててオペ患の指示を出し終えたらすぐに病棟からいなくなりましたよ」

「……そうなんだ」

 先生は家には帰ってきていない。野原さんの口ぶりでは院内からいなくなったようだし、じゃあいったいどこへ行ったっていうの?

不穏な空気を察したのか、野原さんは急いでこう付け加える。

「……ああ、ええと多分私の勘違いです。帰ったと思ったけど医局か仮眠室で寝てたのかも。あはは」

「あ、ははは。きっとそうだよ」
 
 なに笑っているんだろう私。野原さんも“余計なこと言っちゃったな”って顔するのはやめて欲しい。
 
 でももし先生が院内にいたのなら今頃病棟で仕事をしているはず。それは小春に聞けばわかることだけど……。

「お待たせしました。湯波御膳です~」

 注文した料理が運ばれてきて私はスマホをバッグにしまった。

小春に連絡して、先生がいるかどうか確かめて、万が一出勤していないことがわかったら旅行どころではなくなる。かといって野原さんを誘っておいて彼女を置いて帰るわけにもいかない。

それ以前に私の知っている先生は私を悲しませるようなことは絶対にしない。そう信じている。

「……すごい。おいしそうだね。食べよう、野原さん!」

 とにかく今はこの旅行を楽しむことだけを考えよう。だって、じたばたしても真実は変わらない。帰ってから先生に直接確かめればいい。きっと杞憂に終わる。そんな気がした。

「そうですね。いただきます」

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