先生の愛が激重すぎる件
「……ほんとだ……すごい……本当にここにいるんですね」

 おなかの中で懸命に生きようとしている姿を目の当たりにして、この子を全力で守らなければと思った。
 
 なぜそう思ったのかなんてわからない。不思議と迷いはなかった。きっとこういう感情は理屈ではないのだと思う。
 
「次回の診察までに母子手帳、もらってきてくださいね」

 受付の女性にそう言われて私はその足で区役所へ向かった。

指定された書類に必要事項を書き込んで提出すると母子手帳とパンフレット、マタニティーマークをもらった。私はそれを大事にバッグにしまって家に帰った。

「ヴェガ、ただいま」

 駆け寄ってくるヴェガの頭を撫でてやり、水を変えて餌をお皿に盛り付ける。嬉しそうに食べる様子をソファに寝転んで見ているとついうとうととしてしまった。

目を醒ますとすっかり日が暮れていた。飲まず食わずで寝てしまったせいで喉が干からびて声も出ない。

のそのそと起き上がり水をコップ一杯飲み干す。部屋に住みにいたヴェガが足元にすり寄ってくる。

「おそくなってごめんね。お散歩、いこうか」

 リードを付け、エレベーターに乗り込む。体調は相変わらずすぐれないものの、理由がはっきりしたからか以前よりは辛くは感じない。

途中の階で一組の男女が乗り込んでくる。私はヴェガのリードを短く持ち直す。

女性はゆったりとしたワンピースを着ていたが、おなかが大きいのが分かった。一緒にいた男性は気遣うように彼女の腰に手を回している。

彼女も同じ妊婦だ。でも私と違うのは赤ちゃんのパパがそばにいてくれるということ。

どれほど心強いだろう。
 
独りで育てていくにはどれほどの苦労があるのかは想像もできない。父親がいないことでこの子が辛い思いをするかもしれない。私が病気にでもなったら……もしそんなことになったらどうしよう。

責任取れる?

「クゥン」とヴェガが鳴いた。もうすでにエレベーターはエントランスに到着していた。

「ごめん、ごめん。行こうか」

 ヴェガは私の変化に気付いているのだろうか。いつもよりゆっくりと歩いてくれている。涼しい風にあたると吐き気も少し治まった。

いつもの散歩コースをたどり、帰宅すると簡単に夕食を済ませてお風呂に入った。

< 93 / 115 >

この作品をシェア

pagetop