恋の魔法なんて必要ない!~厭世家な魔術師と国外逃亡した私の恋模様~
悲劇は突然に訪れる。
この時の私は予想してなかった。
誰かに見つかるのは想定していたし、頭の片隅に消えることなく常にあった。
それ以上に躍動的に潜在的に、迫りつつあった。
「行って参ります」
「すまないな、気を付けて」
イヴァンは今日、用事があるみたいで、お家を空けると言っていた。
だから、ご飯を作り免除のその日、私は出かけることにした。
そしてこれまた気難しい家主の外出許可が下りるまで骨が折れるのなんの、出掛けろといったくせに。
申し訳無さそうな瞳にありがとうと笑い掛けて、髪を後ろで束ねる。
心配なのか、不満なのか。
それともケーヤク、通りにできなかったからこの顔なのだろうか。
...ケーヤクがなかったら私たちは今...
ふるふると首を振って、変な事は考えない、考えない。
頭巾を目深に被り、深い藍の目立たない外套を羽織って外に出ると、ぶるりと全身に震えが走る。
さっき感じた胸の痛みは寒さでたちまち麻痺した。
馬車はもう、門の前に停まっていた。
今朝、馬車のお迎えに待っていたのはクロエだった。
「クロエが送って下さるの?」と訊けばニコニコ、安全第一に頑張りますとの頼もしいお言葉。
「普通、御者の方が来るのかななんて、思っていたのだけど。嬉しいわね」
「えぇ、私は坊っちゃん係ですから」
「ふふ、坊っちゃん?」
「いいえいいえ。もう立派な大人だものね。今はイヴァン様、ですね」