恋の魔法なんて必要ない!~厭世家な魔術師と国外逃亡した私の恋模様~
右手には桃色の柔らかい包がある。
手で握っていても、体温で決して溶けてきたりなどしない。
起きると一言目に、「これを食べろ」と渡されたのだ。
薄い包の中は、さらさらと星屑のような粉なのか液体なのか、不思議なものを守るように見えた。
見た目は充分楽しんだから、そろそろ食べようか。
銀貨くらいの包をそのまま口に放り込むと、それは瞬きをするかしないかの寸秒であった。
口の中で、するりと溶けて、それが体中に回ってさらにじわじわとけた感覚が広がって。
────まさに魔法だ。
食べ物は見えるのに、すぐに見えなくなって、感覚だけが残る。
「魔法って、わかんない...」
「もうすぐですよ」
つぶやくとクロエが宥めるように言った。
「───待って、止まって。...下ろして」
ふとある家が目に留まった。
「あの小屋だ...」
それは屋敷にいた小さな頃のこと。
泣いた時、よく籠もった図書館以外の場所がもう一つあった。
裏庭の隅の用具入れと、似ていた、すごく。
「わぁ......」
静かな店内。
決して豪華な貴族御用達という雰囲気ではなく、こざっぱりとした木目が温かい。
こぢんまりと並ぶ机と椅子にはぽつぽつと人がいて。
手で握っていても、体温で決して溶けてきたりなどしない。
起きると一言目に、「これを食べろ」と渡されたのだ。
薄い包の中は、さらさらと星屑のような粉なのか液体なのか、不思議なものを守るように見えた。
見た目は充分楽しんだから、そろそろ食べようか。
銀貨くらいの包をそのまま口に放り込むと、それは瞬きをするかしないかの寸秒であった。
口の中で、するりと溶けて、それが体中に回ってさらにじわじわとけた感覚が広がって。
────まさに魔法だ。
食べ物は見えるのに、すぐに見えなくなって、感覚だけが残る。
「魔法って、わかんない...」
「もうすぐですよ」
つぶやくとクロエが宥めるように言った。
「───待って、止まって。...下ろして」
ふとある家が目に留まった。
「あの小屋だ...」
それは屋敷にいた小さな頃のこと。
泣いた時、よく籠もった図書館以外の場所がもう一つあった。
裏庭の隅の用具入れと、似ていた、すごく。
「わぁ......」
静かな店内。
決して豪華な貴族御用達という雰囲気ではなく、こざっぱりとした木目が温かい。
こぢんまりと並ぶ机と椅子にはぽつぽつと人がいて。