恋の魔法なんて必要ない!~厭世家な魔術師と国外逃亡した私の恋模様~
右手には桃色の柔らかい包がある。

手で握っていても、体温で決して溶けてきたりなどしない。


起きると一言目に、「これを食べろ」と渡されたのだ。

薄い包の中は、さらさらと星屑のような粉なのか液体なのか、不思議なものを守るように見えた。


見た目は充分楽しんだから、そろそろ食べようか。

銀貨くらいの包をそのまま口に放り込むと、それは瞬きをするかしないかの寸秒であった。


口の中で、するりと溶けて、それが体中に回ってさらにじわじわとけた感覚が広がって。

────まさに魔法だ。

食べ物は見えるのに、すぐに見えなくなって、感覚だけが残る。

「魔法って、わかんない...」

「もうすぐですよ」

つぶやくとクロエが宥めるように言った。



「───待って、止まって。...下ろして」


ふとある家が目に留まった。


「あの小屋だ...」


それは屋敷にいた小さな頃のこと。

泣いた時、よく籠もった図書館以外の場所がもう一つあった。

裏庭の隅の用具入れと、似ていた、すごく。


「わぁ......」

静かな店内。


決して豪華な貴族御用達という雰囲気ではなく、こざっぱりとした木目が温かい。

こぢんまりと並ぶ机と椅子にはぽつぽつと人がいて。


< 101 / 120 >

この作品をシェア

pagetop