恋の魔法なんて必要ない!~厭世家な魔術師と国外逃亡した私の恋模様~
馬車を振り返る。
「私、ここからは歩いていくから、大丈夫」
「え、本当ですか?でも、」
「地図を昨日もらったから。...大丈夫、責任は私が取る」
この時無理言った私が悪い、どう考えても。
あとになってみれば後悔しかない。
なんとか説得して、納得いかない顔で帰っていったクロエ。
「ごきげんよう。座ってもいいかしら」
ちょっとくらいここで過ごしてもバチは当たらないだろう。
せっかくの機会、逃してはならない。
お茶飲んで、少し休んでから印刷屋へ行けば良い。
「もちろんどうぞ、お嬢さん。お茶のご希望をお聞かせ願えますか」
やはり飾らず素朴で素敵なお店だ。
お気に入りのダージリンティーを注文してから、少し目を瞑って耳を澄ませる。
異国語のお喋り。
茶器のぶつかる音。
昔のと同じ木の匂い。
喧騒は魅力的で、すごく心地良い。
気づかぬうちに頭巾を外したのが、運の尽きだった。
「っ!!!っ、離してっ」
突然腕を捕まれ、振り返れば。
それはお父さま...でもなく、学長でもなく────全く知らない男だった。
「だれっ、はなしてっ」
「...間違いねえな。さあさあ、喚かずに黙ってついてこいや」