恋の魔法なんて必要ない!~厭世家な魔術師と国外逃亡した私の恋模様~


言葉が通じない...っていうかそりゃそうだ。

こんなフェランドール語なんて知らないもん。

ぐいっと手を捻られて、ひいぃと声を出そうとすれば口に布を詰められて。


「う~...あぁー...ぅ!!...っ、ぁっ!」


ドア近くまで引きずられ、必死の抵抗で踏ん張ろうとしたら、...三半規管がバカになってくる。


ぐらん、ぐらんと頭が揺れ、気持ち悪さで思考が狭まっていく。



そこから何かに乗せられ、気づけば知らない部屋で、それは宿みたいで。



床に横になっているようで、出口は遠くて、木組みの窓はそれよりまだ近くで、

腕は縛られていて、足も挫いたみたいで動かなくて...。

這ったまま窓まで行きたくて、頑張ったら行けそうで、頑張ってみて、

焦って、怖くて、苛立って、泣きそうでパニックで。


窓が大きく見えたら、ひょいと誰かに持ち上げられ、硬いベッドに乱暴に寝かされた。


「逃げようたって無駄なんだよ、お嬢さん」

「うぅー、ぅあ、...」


私の腕を掴んできたあの男だった。


喋りたいのに布が喉に詰まって吐きそうで、涙が出てきてしまった。

泣いちゃだめだ。


泣いたら、冷静さを失っては、逃げ道を探せなくなる。



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