恋の魔法なんて必要ない!~厭世家な魔術師と国外逃亡した私の恋模様~
溜まった涙をどうにかしようとパチパチ瞬きを繰り返すけど、なかなか収まってくれない。

昨日泣きまくったんだ。

私の身体、いい加減泣くのに飽きたら良いのに。


しばらくして、男はいなくなって、そこで気付いた。


「あ...ぉ、...ぁ...っあ、...」


あの男、アヴィヌラ語だった。


どういうこと、どうなってるのわたし。


戻されるの、あの国に、屋敷に、学校に。



後ろ手で縛られた縄は解けそうで全然解けない。

自由だけど自由に動かない足を使うのだ、それならば。


鉄のベッドだろう、足で縁を触るひんやり冷たい感覚からすれば、鉄だ。

イヴァンの屋敷の、鉄枠のベッドを思い出してまた瞼が熱くなって、必死に振り払う。


...身体が起こせない。

足は力が入らなくて、踏ん張れば激痛。

これ...捻挫じゃなく骨折だ。


バチバチッとマッチの音がやけに大きく聞こえて、近づいてきて。


「チッ、子兎、まだ懲りねえか」

「ひっ......、っ、」


今度はさっきの男ともう一人、いた。


「これ、使っていいか?親分」

「もうしようがねぇからな。いい、やれ」


「な、なに......??!」と訊いてもくぐもった呻きになるだけだし、きっと答えてくれないし。


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