恋の魔法なんて必要ない!~厭世家な魔術師と国外逃亡した私の恋模様~

「..ぁ、」

変わらない眩しさと人の会話の中に、イヴァンの姿は見えない。

こえ、こえ、聞こえるのに。

明るい気持ちになった頬に再び冷や汗が流れる。


声の方へ手を伸ばせばふわりと肩に熱が触れて、両腕で抱え上げられる。


首に、ほっぺたに、ぺたぺた触ったら見えた。

城の大広間は歪んで、そこにはイヴァンがいた。


見えてなかっただけだった、ちゃんといた。

暖炉と木と羊皮紙と、薬品の匂い。

家ではこれらにずっと囲まれてたから、イヴァンの匂いだってわからなかった。


イヴァンの匂いだ、これ、イヴァンだ、


胸に顔を埋める私にイヴァンは何も言わない。





「アンナ、......アンナ、何が起こった」


優しい優しい声で、怒った顔で覗き込まれた。


乾いた唇に、どこからか取り出した油を塗って貰えれば、口の疲れがふっと消えた。


「瓶の匂い、かいだら、気づいたらここで」


周りを見渡せば、私を縛ったおじさんも、アリーナも村の人もいなくて、いつの間にか静かになっていた。


イヴァンの家の外の夜みたいで、淋しくて暗い。

そして嘔吐物が、...匂う。


「ごめんなさい......。...っ、これ、早く消して、どっか連れてって、家に帰りたい...」




「ごめん、ごめんね、ここから...出して」


首を掴んでイヴァン、と、また目に涙が溜まっていく。

ギリギリこぼれなくて、耐えた。


「えらい」と自分で言おうと...する前にイヴァンが私の頭を撫で、「えらい、えらい」って言ってくれた。

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