恋の魔法なんて必要ない!~厭世家な魔術師と国外逃亡した私の恋模様~
目覚めたら、いつもの自分の部屋だった。
大好きな感覚に嬉しくなる。
鉄製の薄い布団、インクと紙の匂い、薄く汚れた壁紙。
これが新しい普通に変わったんだなあと思うと、すっきりと感慨深い。
時計の針は9時。
とりあえず窓を開けると、冷たい新鮮な空気が肺いっぱいに満たされた。
昨晩の事が思い出される。
目覚めの良い朝によって気持ち悪さは軽減しているけど、やっぱり心が晴れる感じでは決してない。
そして身体が想定していたより寒さは容赦なくて、へくしょんと小さくくしゃみが出た。
くしゃみの反動で足がピキリと痛む。
足は案の定骨折。
今は布で固定しているが歩くのはしんどくて、ひょこひょこゆっくり移動。
思った通りに動けないとは、何とももどかしくてじれったい。
のんびりもしていられないのだ。
寝坊しているし、朝ご飯だ。
ひょこひょこ壁伝いに台所へ向かうと、何だかいい香りが漂っている。
「わぁ...!...って、クロエ?!!」
台所に立っていたのはイヴァン...に加え、いつも来たら本邸から荷物だけ下ろして去っていくはずのクロエがいた。