恋の魔法なんて必要ない!~厭世家な魔術師と国外逃亡した私の恋模様~
「え、どうしてどうして?」
訳すと、「どうしてクロエがいて、どうして君が料理をしているの?」である。
足りない語彙力ながら尋ねると、ぼそりと返事になっていない答えが返ってきた。
「治るまで飯を作る必要はない」
ひやりと肝が冷えた。
「へ?.........出てけってこと...?」
「ふふふ、どうしてそうなりますか」
笑い声を上げたのはクロエだった。
なぜニコニコしてるんだろう。
これはイヴァンも私もいつも律儀に守っているケーヤク、と同じ。
私は働く、イヴァンは安全を保証する。
どちらも欠けないからこそ、保たれるから。
「坊っちゃんはアンナさんに、怪我人を追い出すほどの人間だと思われているのですか?」
クロエがこんなに楽しそうなのは初めてだ。
イヴァンを軽く小突き、肩を震わせている。
作っているのは七面鳥丸々を使った料理だった。
確かに鶏肉は骨折には効いたような、治りが良いと聞いたことがあるような、ないような。
「どうもありがとう、本当に」
「味は保証しないが、全部食えよ、俺が作ったんだ」
「もちろん、おいしく食べるもん!言われなくてもー」
ほんと、一言多いとはこういうことだ、ふたりとも。
そりてニヤリと笑う眼の前の瞳を見て思う。
こんなに優しいのに言葉は素っ気ない。
やはり嫌われたままなのだろうか──。
これまでもこれからも絶対にしないとは思うけれど、面と向かって問い詰めたくなるときがある...私をどう思っているのかを。