恋の魔法なんて必要ない!~厭世家な魔術師と国外逃亡した私の恋模様~
...沈黙が流れる。
緩くウェーブがかった黒髪から覗く翡翠色の瞳は細められ、近づくなオーラが滲み出ている。
女にしては背の高い私が、見上げるほどの長身。
肩に触れないくらいの長い黒髪。
細められた翡翠色の瞳に、筋の通った高い鼻。
そして、薄い唇から吐き出される言葉はきっと凍っているだろう。
そう直感した。
「早く用件を言え」
男の威圧感に押しつぶされ、声が出ない私。
先に沈黙を破ったのは、男の方だった。
田舎にしては訛りのない流暢な隣国――フェランドール国の言葉だった。
気圧されてはいけない、頑張れ、私。
「こんばんは。すみませんが、今晩ここに泊めさせてください」
なれない口調で、でも何回も練習してきた二文を口にした。