恋の魔法なんて必要ない!~厭世家な魔術師と国外逃亡した私の恋模様~

...沈黙が流れる。


緩くウェーブがかった黒髪から覗く翡翠色の瞳は細められ、近づくなオーラが(にじ)み出ている。


女にしては背の高い私が、見上げるほどの長身。
肩に触れないくらいの長い黒髪。
細められた翡翠色の瞳に、筋の通った高い鼻。

そして、薄い唇から吐き出される言葉はきっと凍っているだろう。

そう直感した。



「早く用件を言え」


男の威圧感に押しつぶされ、声が出ない私。

先に沈黙を破ったのは、男の方だった。



田舎にしては訛りのない流暢な隣国――フェランドール国の言葉だった。


気圧されてはいけない、頑張れ、私。


「こんばんは。すみませんが、今晩ここに泊めさせてください」


なれない口調で、でも何回も練習してきた二文を口にした。
< 5 / 120 >

この作品をシェア

pagetop