恋の魔法なんて必要ない!~厭世家な魔術師と国外逃亡した私の恋模様~
変な人、と思いながら足元を見る。
パンとチーズ、ほんのり暖かいブロッコリーのスープ。
いつもより心を込めて食前の祈りを捧げ、口をつける。
パンは若干固かったが、スープに浸しふやかせばおいしく食べることができる。
久しぶりの誰かの作った料理に、心がじんわりと温まってくる。
花嫁学校では、毎回作った料理の前に立ち、先生が立ち回って点数をつけられる。
そしてどんなに会心の出来でも反省点を提出しなくてはならなかったのだ。
改善点を探しながら食べるご飯は、たとえどんなに良質な素材を使っていたとしても、心をまで満たすことは出来なかった。
そしてありがたいことに、暖かそうな毛布に加え敷布らしき薄手の大きな布まで付いていた。
あんなに素っ気なかったのに、結構良くしてくれている。
...部屋に入れたくないからこその優しさ?
布団をかぶりながらふと思う。
シーツを張った藁布団は意外にも快適で、疲れた身体を癒すようにアンナは意識を沈めた。
私はなぜか、覚えている。
似ていないけれど、何もかも違っていたけれど、私は黒い髪の少年を。
あの深い深い緑の瞳を。
朧気に、でも絶対に、覚えている────。