ひと駅分の彼氏
夏の思い出
電車に揺られてひと駅分立つと、やっぱり今日も現れた。


隣のサラリーマンが下車したタイミングで青いスニーカーが視界に入る。


私はニッコリと笑って顔を上げた。


「お、今日は勉強してるのか」


隣に座った真琴が珍しそうな表情をして私の手元へ視線を落とす。


そこには使い古した単語帳があった。


今日からこれもちゃんと再開することにしたのだ。


ただ、真琴がいる間だけは別だけれど。


「たまにはね」


私はそう言って笑ってみせた。


「そっか、じゃあ今日は思い出話をするのはやめておこうか」


「え、やだ!」


私は慌てて単語帳をカバンに閉まった。


少しの勉強時間くらい、いつでも取ることはできる。


「勉强はいいのか?」
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