もう恋なんてしないと決めていたのに、天才外科医に赤ちゃんごと溺愛されました
 蒼史さんが背中をそっと押してさらに促してくれたことに安心しながら、部屋を出ようとする。

 そんな私の──正確には蒼史さんの背中に再び声がかかった。

「結婚も恋愛も結構だが、無駄な時間を過ごすな。お前のやるべきことはうちを継ぐ医者になることだ」

「……わかっている」

 私が振り返ると、蒼史さんは両親を見ずに返事をした。

 てっきりなんらかの感情を押し殺しているかと思ったのに、彼の瞳はひたすら空虚な光を浮かべていた。



「俺がどういう家で育ったかわかっただろう」

 蒼史さんの車に戻ると、彼があきらかに肩の力を抜いたのがわかった。

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