もう恋なんてしないと決めていたのに、天才外科医に赤ちゃんごと溺愛されました
 そこで息子だけは守ろうとし、代わりにけがを負ったのだろう。

 外傷は見あたらないが、腹部を押さえて苦しそうに浅い呼吸を繰り返していることから、もしかしたら内臓の方にダメージがいっているのかもしれない。

 横転したバスの中で、彼女がどんな恐ろしい目に遭ったのか考えたくもなかった。

「聞こえたか? 優史は無事だ」

 柚子は濁った音の息を吐くと、ほっと肩の力を抜く。

「よかっ……た……」

「ああ」

 手術室までどうしてこんなに遠い?

 もどかしさを覚えて、微かに震える柚子の手を握りしめる。

「柚子」

「ごめんなさい……」

 聞き間違えかと思うほど小さな声が聞こえる。

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