あのスーツ男子はカクテルではなく土の匂い
 
 バーテン君がカクテルをテーブルに置きながら入り口近くの男性を指さす。

 すると、なんと一押しの彼ではないか!

 「……え?」
 
 「待ち合わせなら申し訳ないからとおっしゃってますが、いいですか?」

 
 バーテン君がいたずらっぽい目をこちらに向けた。

 「大丈夫よ」
 
 「わかりました」


 そう言うと、彼にバーテン君が近づき、話しかけた。

 スーツ姿の彼は頷くと、真っ直ぐ私の方へ歩いてきた。

 「はじめまして。というか、私は貴女を何度かお見かけしてますので、少し知った気でいました。いいですか?」
 
 「どうぞ」


 席を立って、挨拶すると窓を向いて隣り合って座る。

 緊張する。

 顔が上げられず、下を向いてカクテルを飲む。

 「……ご迷惑でしたら、言って下さい」
 
 「いいえ、とんでもありません」
 
 驚いて、顔を上げた。

 
 
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