あのスーツ男子はカクテルではなく土の匂い

 「実は、今日昼間に貴女を下の通りでお見かけしたのです」
 
 「え?」


 「貴女ではなかったかな?今日午前中歩いていませんでしたか?」
 
 「はい、確かに歩いていました」


 「……良かった。違っていたらここに座った理由をどう言ったらいいだろうとちょっと悩んでいたのです」
 
 ほっとしたような顔でにっこりと笑いかけられて、私の中に何か電流が走った。

 あ、そうか。木を運んでいたあの男の人。
 後ろ姿と腕まくりした筋肉。


 「……あの、違っていたらごめんなさい。今日そこで木を運んだりされてませんでしたか?」

 「気づいて下さったんですね。そうです。僕です」

 
 「普段のこのスーツ姿とは違うのですぐには気づきませんでした」

 「普段の?」
 
 あ、まずい。余計な一言をいったかも。

 
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