あのスーツ男子はカクテルではなく土の匂い
プッと吹き出して、彼は笑った。
「なんで謝るんですか?褒めてくれてるんでしょ、それ?」
「もちろんです!」
「今日ね、貴女が植栽したところに立ち止まってじいっと苗を見つめているのに気がついて、よく見るといつものバーにいる貴女だった。声をかけようか悩んだんです。でも、土だらけで汚い格好していたし、綺麗な格好をしている貴女に声をかける勇気が出なかった。それで、貴女はいなくなってしまった。声をかけたら良かったと……後悔して。今日はこちらに来るのは難しい日だったんですけど、無理に貴女に会うため時間を作ってきました」
嘘でしょ?今、私に会うためにって言った?
「もしかして、失望してる?スーツ着てなかったから……」
「いいえ。帰り道にあの通りを通ったとき、実は私も貴方がまだいるかなと探していました。嬉しいです、お話しできて」
その後、とりとめもない話をした。
「そうだ。今日、ニチニチソウのピンクグラデーションの新色を見ながら話しかけていたでしょ。こんな色あったのかって」
嫌だ、聞かれてたの?
恥ずかしい。
真っ赤になって下を向いてしまった。