あのスーツ男子はカクテルではなく土の匂い
 
 ハウスの中にはたくさんの小さな苗がポットに植えられている。

 何の花なのかわからない。
 
 「それはね。バラの挿し木」

 「え?そうなんですね」
 
 「これも秘密だから」

 「君をイメージする花を制作中だよ」

 どういうこと?
 
 「自分で色や花形、香りを想像して交配していくんだ。うまくいくかは本当に難しいけど。夢があるだろ」

 そう言うと、手を繋ぐ。

 「暗いところに行くから、手を繋ごうか」

 「はい」

 大きな手。

 そして、少しゴツゴツしている。

 私の手なんて、全部包まれてしまって、指も見えない。

 あったかい。

 そして、ほっとする。

 男の人に手を握られたのは、あのとき以来初めてかも知れない。

 でも、ドキドキする。

 これは、ほっとするだけではない。

 私。
 もしかして、この人が好きなのかしら……。

 
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