あのスーツ男子はカクテルではなく土の匂い
バラのハウスを出て、歩いてまた違うハウスへ入った。
薄暗い電気が付いている。
「このハウスはいい香りだよ。球根系の百合だ」
カサブランカ、シベリア、ソルボンヌ、イエローウィンなどと書かれている。
すごい香り。
これだけたくさんあると、酔ってしまいそうな芳香。
「すごい、香りですね。やはり、このカサブランカが有名ですよね」
「そうだね。百合は咲き出すと夜間のほうが昼間より香りが強い。ただ、強い香りだから苦手な人もいる。ごめん、君は大丈夫?」
「はい。私は香りのあるほうが大好きです」
「そうなんだ?例えば?」
「そうですね。樹木ですと蠟梅、沈丁花、梅、くちなし、それにキンモクセイ。バラや百合、水仙なども好きです」
城田さんは驚いた顔をして私を見た。
「玲奈さんは、樹木や花に詳しいね。これは、侮れないな」
彼は、私の手をぎゅっと握った。