あのスーツ男子はカクテルではなく土の匂い

 「……亡くなった祖母は庭が趣味で、一時期手伝いをしていたことがあって。その時庭に植えてあったものを教えてもらいました。ふたりで散歩に行くと花や樹木の名前を教えられて覚えたり。偏りがあるかもしれませんけど」
 
 「そうか。だから、植栽していたのをじっと見つめていたんだね」

 私は、深呼吸をしながら話した。
 
 「このような、花の香りも私にとっては大変な心の癒やしなんです。祖母と庭いじりをしていた頃、とある事情で学校へ行けなくなってしまっていて、植物に本当に癒されました。そうしてやっと社会復帰できたんです。植物は私にとって大事な恩人です」
 
 そう。定期的に花に触れていないと寂しくなるくらい。最近は切り花だけでなく、小さな鉢植えを買ってきて部屋においている。

 手を引かれてハウスを出ると、小さな事務所のようなところに連れて行かれた。

 中は休憩室のようになっている。
 冷蔵庫、電子レンジ、コーヒーメーカー、ポット。食器戸棚、テーブルと椅子。簡素な作りだ。

 「あまり綺麗じゃないけど、良かったら座って」
 
 そう言うと、椅子を引かれた。

 「コーヒーと紅茶どっちがいい?お煎茶もあるよ」
 
 「じゃあ、コーヒーをお願いします」
 
 「了解」

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