【短編】悪役令嬢は全力でグータラしたいのに、隣国皇太子が溺愛してくる。なぜ。
 なにを今さら慌てているのだろうか。そんなに別れてほしくなければ、最初から大切にすればいいのに。この会話を耳にしているフレッドから、ピリピリと魔力が漏れ出している。主人が理不尽なことを言われて、忠誠心が篤い騎士だから怒りを感じるのだろう。

「これ以上食い下がるのでしたら、ご令嬢から集めた証言を王太子殿下の不貞の証として国王陛下へ提出いたします。父から渡せば、あの数では国王陛下でも無視できないでしょう」
「そっ……そん、な……私は、お前がなにも言わなかったから……問題ないのだと……」

 私がなにも言わなかったのは、以前の私が王太子に嫌われたくなくて黙って耐えていたからだ。
 記憶を取り戻してからは、一瞬で気持ちが冷めたけれど。

「私がなにも言わなければ、数々のご令嬢と浮名を流してもかまわないというのですか?」
「……だって、いつだってお前は微笑んでいたじゃないか!」
「微笑みの下は、いつも悲しみと嫉妬であふれてました。もう、そのような思いはしたくありません」
「それでは私が王太子でいられないのだ! 激怒した公爵から廃太子を迫られて、お前と再度婚約しないと私は——」
「だからなんですの? 婚約者でもない私には関係のないことです。お引き取りください」

 王太子殿下は返す言葉がないようで、フレッドに引きずられ項垂れたまま応接室を後にした。

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