月へとのばす指
暗いからわからないが、きっと唯花は真っ赤になったに違いない。そんなふうに彼女は身をこわばらせ、唇を引き結んだ。
さっきよりもさらに長い間を置いて、彼女は小さくうなずいた。
少々驚いたが、唯花が「誰とも付き合わなかった」ことが真実で、筋金入りだったのだと認識した。キスですらこんなふうに物慣れない反応を見せるぐらいだ。本当にこれまで、男との物理的な接触は無いに等しかったのだろう。
そんな彼女が、久樹を受け入れる決意をしてくれたことがひどく健気に、そして愛おしく感じた。
久樹は唯花を抱きしめる腕をゆるめないまま、できるだけそっと、細い体をベッドに横たわらせる。その彼女に覆いかぶさる格好で、久樹はそっと言った。
「なるべく優しくするから、怖がらないで」
そうして、約束の印のように、再びキスをする。何度か、ついばむように繰り返して。それだけでも感じる甘さに引きつけられて、次第に口づけは深くなっていく。
舌で柔らかな唇を舐めると、驚いたように隙間が空いた。その隙間からすかさず、彼女の口腔へと侵入する。
唯花の体のこわばりが増した。ああ、ディープキスも経験がないんだ。そう思った。
ゆっくりと、愛おしむように小さな口の中を舐め尽くす。揃った歯列、引き締まった歯茎。舌先でちろちろと彼女の舌をつつくと、戸惑ったように反応した後、ぎこちなくこちらの舌に触れてきた。そっと絡め、唾液を交換するかのようにねぶる。
甘さを堪能し、ようやく唇を離すと唯花は、はあっと息を吐き出した。浅い呼吸を繰り返し、暗い中でもわかるほどに目が潤んでいる。
それがやけになまめかしく感じられて、久樹はごくりと唾を飲み込んだ。
彼女が美人であるのは知っていた。だがこんなにも──夜の闇の中で、これほど輝いて見えるなんて。
なんて綺麗なんだろう。
そっと頬を撫で、その手を顎から首筋へ滑らせた。唯花の肌がかすかに震えるのが、指先に伝わってくる。
同じラインを、今度は唇でたどっていく。髪の甘い香り、そして肌の香りが、ふわりと鼻先に漂った。彼女の……女の匂いだ、と思った。
その匂いをもっと味わいたくて、肌に舌先を這わせる。おそらく初めての感触なのだろう、唯花が大げさなほどにびくりと肩を揺らした。