完璧上司の裏の顔~コスプレ動画配信者、実はファンだった苦手な上司に熱烈溺愛される

 それは一時の気の迷いかもしれないし、ただ恋愛にのぼせあがっているだけかもしれない。千紗の父親のように、いつか突然いなくなったり裏切ったりするかもしれない。それでも井村の告白は胸に迫ってくる切実さがあった。

「あのさ、改めて俺と付き合ってくれませんか」
「……!」
「いや、まだそんな段階じゃない。待つ! 待つから俺の気持ちだけ伝えさせて」

 井村が意外と我が強いことを知る。普段は物腰柔らかな人の意見をよく聞く大人に見えたが、駄々っ子のように引かない。
 
「わ、私田吾作さんが好きでした。でも田吾作さんと井村さんは同一人物で──だから、多分井村さんのことも……嫌いじゃないし感謝もしてます」

 好き、とまではまだ言えない。まだ騙されたという憤りも残っている。心が揺れている。それくらいしか今は言えない。

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