完璧上司の裏の顔~コスプレ動画配信者、実はファンだった苦手な上司に熱烈溺愛される
「……本当に音楽やめるの?」
「私は人に注目されたり、認められたりするためにやるのは向いてないんです」
「うん」
「だから、借金も返したし、もういいのかなって」
「そうか……千紗ちゃんが決めたことならそれでいいよ」
とは言ったが、本心では複雑だった。千紗は演奏している時が一番輝いていた。生きているって感じがすると、田吾作にもよく言っていた。
だが、本人が苦痛なら仕方がない。
千紗の動画には今も復帰を願うコメントが延々とついている。井村もファンの一人としては同じ気持ちだ。
だが、恋人としてはいささか異なる。
千紗が有名になり、自分だけが知っている千紗の魅力が世界中にバレてしまった。以前からファンはいたが、千紗の本当の魅力が最後の動画に凝縮されていた。
だから、自分だけのものにしたい。だれにも見せたくない。だけど、あの才能を埋もれさせたくない。
二律背反な感情が芽生えてくる。
そんな利己的な想いを抱えている自分に戸惑った。
やはり自分は偽善者なのかもしれない。そう思う。