完璧上司の裏の顔~コスプレ動画配信者、実はファンだった苦手な上司に熱烈溺愛される

 名前を呼ばれて、振り返ると母がいる。以前よりふっくらして顔色もいい。

「どうしたの。そんな呆けた顔して」
「いや、雲がきれいだなって」
「井村さんが帰って寂しいの?」
「え? いや、そんなことは……あるけど、でも私ここの暮らしが合ってる気がしてるの。これからのことも正直今は考えられなくて」
「恋愛は生ものだから、うかうか油断してるとあっという間に腐っちゃうのよ」
「はぁ……」

 身内に恋愛談義をされるほど恥ずかしいものはない。

「色々あったし、しばらく休むのはいいけれど、大事なものをなくさないようにね」
「えっ」
「なにか、ギクシャクしてるように見えたのよね」

 ──やっぱり?

 優しいことは変わらないが、どこか千紗を見る目が変わった気がする。
 もう冷めたとか飽きたとか、会いに来るのが面倒くさいとか。
 ワイルドな暮らしをしている女子より、都会の洗練された女子のがよくなったとか?
 仕事をしながら北海道まで来るのは容易なことではないことぐらいわかる。いつまでも井村に負担をかけたり、甘えているだけでは駄目だとは思っていた。
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