人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
「で、何で俺が悪女なの?」

「所作が無駄に色っぽい。お祖母様みたいです」

 お祖母様、という単語にロイは意外そうな顔をする。アリアの母方の祖母はキルリアでは男狂いの悪女として有名で、彼女の容姿はその祖母に瓜二つなのだと聞いている。
 そんな悪名高い相手といくら血縁とはいえ親しく交流を持つだろうかと思うロイに、

「お祖母様はただハニートラップ仕掛けて情報抜いてただけですよ」

 とアリアはさらっと内情をバラす。お母様は、お祖母様のお仕事嫌厭してたみたいですけどと、懐かしそうに目を閉じてアリアは語る。

「私、6番目の子だし上の兄姉はみんな優秀なので、特に役割も求められてなくて。でも、見目がお祖母様に似てたからお母様がどう扱えばいいか困ったみたいで」

 幼少期、母との間に壁があったことをアリアは思い出す。

「お祖母様は私を後継者にしたかったようなんですが、スパイにするには私壊滅的に演技力がなかったみたいで」

 演技指導受けたんですけど、何一つ身に付かなかったとアリアはポツリとこぼす。

「ああ、うん。すごく分かる」

 アリアは見た目だけなら間違いなく派手目な顔立ちの美人だし、所作は王族らしく綺麗だが、色気は一切ないなとロイは頷く。

「6つの時、継承権の儀式で荊姫が鳴きました。それから私の魔力はずっと荊姫のモノなんです。魔剣に選ばれた私は娼館で手練手管を学ぶ代わりに騎士団に放り込まれました」

「王家の生まれでその2択ってすごいな」

 対外的には王宮で育った箱入り娘なんですけどねとアリアは楽しそうに幼少期を語る。
 騎士団に放り込まれ剣を学び祖母とは違う道を歩きはじめた時から母との関係も改善したから、きっと剣の道を志したのは正解なのだろうけれど。

「ロイ様を見てると、もし私にもう少し色気があったら、無駄に派手目な見た目も活用できたのになって思ったりします」

 悪役姫なのに悪女度でも皇太子に勝てないっと嘆くアリアを見ながら、ロイはクスクス笑う。

「何、アリアは俺に勝ちたいから悪女になりたいのか?」

「とりあえずなんでもいいから皇太子(ラスボス)を打ちのめしたい」

「俺はアリアの中でラスボスの位置付けなんだ」

 なんのラスボスだよと楽しそうに話を聞くロイは自分の分のグラスを空けて、

「そろそろお開きにしようか」

 とロイが遠ざけたはずのお酒のグラスを引き寄せようとしたアリアを止める。

「えーまだ飲みたいです」

「アリア、お前だいぶ酔ってるからな」

「酔ってない」

「酔ってる奴は大概そう言う」

 もうこれ以上はダメとアリアからお酒を取り上げて片付けるロイを見ながら、アリアはコテンとソファーに寝転ぶ。
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