人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
「そのゼノ様? ってそんなに人気なのね。お友達とかもゼノ様推しなの?」

「違いますねー。そもそも私ゼノ様に関しては同担拒否なんで」

 嫁の笑顔は私のモノとヒナは推しについて語る。

「この世界剣から炎とか氷とか連続で斬りつける魔法みたいなのないんですね」

 何度か討伐について行って遠目で騎士達の活躍を見たけど、魔法使ってなかったとヒナはちょっと残念そうに言う。

「あーうん。そういうのはないかな? 魔法は普通にあるけど」

 ヒナはなかなかのゲーム脳だった。期待に添えなくて申し訳ないとアリアは苦笑する。

「ヒナ、討伐に行くの怖くない?」

「かなり後方で手厚く守ってもらってるので。でも、そのせいでロイ様動きにくそうで申し訳ないです」

 小説だとだいぶ前線、というか常に隣にいたはずだけど、実際は違うらしい。確かにヒナ自身を怪我させるわけにはいかないしな、と思ったアリアは、

「私もうすぐ騎士団に復帰するし、次回からの討伐は私がヒナにつくわ」

 と宣言する。

「え? アリア様騎士なんですか?」

 驚いたように目を丸くしたヒナは、この世界に落ちて来た時にあった女性騎士の存在を思い出す。

「もしかして、私が来た時に駆けつけて来てくれたのって」

「うん、私。騎士服着てたし、目の色違ったから分からなかったかもしれないけど。この国で女性が仕事を持つのは難しくてね。騎士は今のところ私だけなの」

 アレ以来女性の騎士は1人も見かけないなとは思っていたが、アリアが唯一騎士団所属の女性騎士だとヒナは今初めて知った。

「これでも腕は立つ方よ? その方が殿下が自由に動けて効率もいいでしょうし、私が隣にいればヒナも後ろでじっとしていなくてもいいはずよ」

 ヒナは目の前に座る美しい淡いピンク色の瞳の女性をじっと見る。
 ふふっと見惚れるくらい綺麗に優しく微笑んだその人は、

「あなたの事は私が守る。傷一つつけさせやしないわ」

 静かな口調でそう言った。
 ヒナはアリアを見ながら思う。彼女は自分のことを悪役姫だなんて言うけれど、どんな話も楽しそうに聞いてくれるし、何より優しい。
 誰かに絡まれて困っていればさりげなく助けに入ってくれるし、この世界の理で分からない事があれば異界人(ヒナ)が理解できる言葉に置き換えて教えてくれる。
 ただの散歩でさえ、さりげなくエスコートしてくれるのだ。
 どこかの国のお姫様というだけあって、ひとつひとつの動作も洗練されていて、紅茶を飲む姿すら見惚れるくらい美しい。

(……か、かっこいい)

 ヒナの中でその日、アリアはこの世界で最も推せる人になった。
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