人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
「両方、アリアのために用意した。アクアプールからアリアが帰って来たら渡そうと思って」

 そう言ってロイはキャンディごとアリアに小瓶を差し出す。

「遅くなったけど、おかえりアリア」

 アリアは驚いて、淡いピンク色の瞳を瞬かせる。

「……私、に?」

「そう。アリアが討伐から戻って来たらこれからはもう少し一緒にいる時間を増やそう、って言うつもりだった」

 そのために部屋も過ごしやすいように物を増やしたし、ダイヤモンド宮(正妃の住まい)も整えていたとロイは続ける。
 目を丸くしながら聞いていたアリアを見ながら、ふっと意地悪く口角を上げたロイは、

「想像してもらえるだろうか? だと言うのに討伐に行く前に交わした約束も、関係性も全部なかったことにされた上に、離縁状を渡された俺の気持ちについて」

 アリアに望んでもいない結婚勧められて悲しかったなーとロイは大袈裟な口調でそう言う。

「だって、そんなの知らないもん。それなら私だって言わせてもらうけど、目が覚めた時に丸めた離縁状が置いてあった私の気持ち分かります!?」

 1周回って腹立たしくなったアリアは告げる。

「聖女様の力なんて貴重なもの、どうやったって囲う一択でしょ!? その上戻ったら一番に顔見せに来いって言った旦那様が美少女お姫様抱っこしてたら舞台から降りるわよ!!」

 だって、自分の知っている通りにヒロインが異世界から転移して来たのだ。正直お似合いだと思ったし、2人はどうせ恋に落ちるのだから、悪役姫など物語から退場するしかないじゃないとアリアは思う。

「なるほど、つまり倒れると分かっているのに不要な後処理の場面でその目(特殊魔法)を発動したままだったのは、やきもちを焼いていたから、か」

 特殊魔法は基本的に戦闘時以外使用しないって、タレコミがあるんだがとロイは揶揄うように指摘する。

「はぁ? 違いますー! 勝手に解釈しないでくれます?」

 図星を突かれたアリアはそう言ってそっぽをむく。

「俺は妬いてたけど? ようやく目が覚めたと思ったらヒナばっかり構うアリアに」

「な、に……言って」

 突然そんな事を言われて固まるアリアに、

「なら俺も言うけど、離縁状書く前にせめて一言聞けよ。あれは置いてたんじゃなくて落ちてたんだ」

 まぁ、忘れてきた俺が悪いけどとロイはため息を漏らす。

「アリア、お前のちょっとは基準甘すぎ。アレクのシスコンは重度だから!」

 毎週何通も離縁状を送ってくるんだけどと、ロイは苦情をのべる。

「アリアはアリアで弁解する機会すらくれないし」

「えーと、それに関してはごめんだけど。でも! 私にだって言い分はあります!!」

 きゅっと唇を噛み締めたアリアは、

「私が望む結末を持って来たって何よ! あの日は私、ロイ様にヒナの事相談したいと思ってただけだったのにっ」

 話し合おうと思った瞬間にさよなら告げられた私の気持ち分かる!? とアリアは強めの口調でそういう。

「離縁状だって神官長のサイン入りで。ああ、もう話し合いの余地ないじゃないって思うわよ!!」

 信心深いアリアにとっては教会の一番上に立つ神官長のサインは決定事項だ。

「大体毎回現れるタイミング良すぎなのよ。このブレスレット、何か仕込んでるんじゃないかって疑ってるから!!」

 1回は偶然だとしても、2回目があればそれは必然だ。気にしていなかったが、今更ながらアリアが湖に出向いた時にロイが現れるタイミングに違和感を覚える。
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