人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
「マジか。ホントタイミング悪いな。でも、アレクと賭けてたんだからしょうがないだろうが」

 賭け? と眉根を寄せるアリアに、

「アレクはアリアを国に連れて帰るって聞かないし、俺としてもアリアが自主的に俺のところに来なければ話し合いにならないと思ったんだよ」

 だから離婚って煽れば来るかなってとロイはため息をつく。

「神官長はまぁ、脅して口止めした上でサイン書かせたし。ブレスレットも当然転移魔法起動時俺のとこに知らせが来るよう仕込んでる」

 色んな奴の弱みだって色々握ってるし、仕込みだっていくつもしてるに決まっているとロイは悪びれる事なくぶっちゃける。

「大体、2国絡むのにそんなあっさり手続きできるわけないだろ。実際はただの噂が横行しているだけで、何一つ動いてない。が、賭けに負けたらあのサイン入りの離縁状がアレクの手に渡る予定だった。そうなればキルリアに離縁状が渡ってアレクの気分次第でいつでも離縁させられるってわけだ」

 危なかったなぁとアリアを受け止めた時の事を思い出し、ロイは苦笑する。

「ちなみに、ロイ様が賭けに勝った場合はどうなるのですか?」

「俺が離縁状をアリアに渡した件について、キルリアから正式に抗議を入れるようアレクに頼んだ」

「……そんな事、帝国にはなんのメリットもないじゃないですか」

 むしろキルリアと揉める事になるなんて、デメリットしかない。それにロイの皇太子としての信頼の失墜にも繋がる。
 そんな悪手をロイが取った理由が分からずアリアは待ったをかける。

「そうだな。キルリアから公式的に抗議が入り、さらに俺とアリアの婚姻継続を巡って揉める事になれば、キルリアと縁深い同盟国も全部敵に回す事になる」

 とロイは意地悪そうに口角を上げる。
 キルリアは代々政略結婚で様々な国と縁を繋いでいる。その数は多く、そしてその中には帝国の重要な外交先も含まれる。

「あれだけの証人がいる中でアリア自身が正妃を降りたくないって言ったからなー。その上でのキルリアからの抗議。そして俺はアリアを正妃にと望んでいる。さて、果たしてこの国の連中は俺抜きでそれだけ重要な国を相手に諍いを起こす余裕があるだろうか?」

 救国の聖女様と重要な同盟国のお姫様、どっちが今後の帝国にとってより重要度が高いか認識を改めてもらうのには必要なことだとロイは笑う。

「時間かかったけど、根回しはちゃんとしてあるから。キルリアから抗議が来ても今回は警告のみで、謝罪を受け入れてもらえる手筈になってるし、聖女を妃に据えなくてもすぐにヒナの身柄を渡せとは言われないようにもしてる」

 すごく大変だったと賭け事をするにあたっての準備の日々を思い、二度とやりたくないとロイはこぼす。
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