人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
 彼は今も水面下で王弟殿下やその子と権力争いを繰り広げているし、小説後半では家臣からの裏切りと反乱に見舞われる。

(だから、古くから王族である者の血が欲しかったのよね。けれど、結局ヒナを選ぶのだから、ロイ様にとってはキルリア王家の血など多分そこまで重要事項ではないはず。もっと、ロイ様にとって大事なのは)

 アリアは会場内にチラッと視線を走らせ、じっとロイを見上げる。

「どうしました、姫?」

 そんなアリアにロイは眩しいほどの微笑みと気遣いを向ける。

(ロイ様にとって大事なのは、諸外国との繋がり。特に、軍事国家ウィーリア。こことの同盟を結ぶ糸口が欲しいはず)

 ロイにとってアリアが結婚相手としてちょうど良かった理由の大半は、アリアをきっかけとして、アリアの姉達の嫁ぎ先や兄達が繋がっている諸外国との外交を円滑に行うためだ。
 つまり、外交さえ上手くいけばアリアを妻としておく必要がないと言える。

(リーベル帝国とキルリアの関係は同盟条約が覆らないように取り決めが守られれば必ずしも婚姻で繋ぐ必要はないわ)

 元々キルリアにいる父達はアリアを嫁に出すつもりなど無かったのだから、この辺の問題はどうにかなるだろう。
 つまり、ロイが繋がりたい相手国との外交目的を達成できれば、私たちは円満に離婚できるはず、とアリアはそう考えていた。

「お話ししたい方達がいますの。もちろん、殿下もご一緒に」

 アリアはニコッと微笑んで、ロイについて来るよう促す。
 いい感じに外交をこなして、いい感じにロイにとって用済みになり、いい感じにロイに嫌われ、いい感じにヒナがくる前に離縁され、この物語から退場する。
 それがアリアの立てた円満離婚、破滅ルート回避計画だった。

(ふふふ、我ながら完璧っ! 完璧過ぎるわ。見てなさいよ、ロイ様。今回のこのイベントが終わったら見事あなたから離縁状をもぎ取ってみせるわ)

 そんな決意とやる気に満ちているアリアは、悪女っぽい妖艶な微笑みを浮かべコツコツコツコツとヒールを鳴らしながら目的の人物たちに近づいていった。
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