人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する

8.悪役姫は、初めての公務に臨む。

 正直にいえば、ロイはアリアに皇太子妃としての役割などはあまり期待していなかった。
 今日はアリアにとって初めての公務だ。自分の隣で問題なく挨拶を交わせればそれでよし。それが、ロイにとってアリアに求める最低ラインだった。
 だが実際今隣にいるアリアを見て、ロイはアリアに対しての自分の認識を改め直さなければならないと、そう感じていた。

「こんな話、女性には少し難しかったかな?」

「いいえ。ミーナの砂漠地帯緑化計画の研究、とても興味深いお話ですわ。最新のデータですと・・・・・・」

 アリアはこの会場に来るまでに世界情勢や今回参加する国の最新研究などあらゆる情報を頭に叩き込んできた。
 そして交渉術、コミュニケーション能力、接待術はキルリアにいる時に王族の教育の一貫として叩き込まれているので完璧だ。

「まぁ、その事業ですと帝国の技術が役立ちそうです。業務提携すればもっと面白い事業へと発展しそうですわね。ねぇ、殿下もそう思いませんこと? 交渉の際にはぜひ、我が国にも一枚噛ませていただきたいわ」

 公務について帝国に有利な条件でことが進むようにすることはもちろんのこと。

「まぁ、興味深い内容ですわ。マーシャル公爵のお話、もっと聞かせて頂きたいわ。ねぇ、殿下?」

 笑顔は崩さずアリアはロイに微笑むと絶妙なタイミングで、ロイに話を振る。
 場内を巡りロイが今後関わりたいと考えていた各国の重鎮達を通訳なしで7ヶ国語駆使し、その会話術と美貌でたらし込む。
 きれいな身のこなしで歩くその姿と艶やかで美しい声音。アリアの堂々たるその姿は王族としての色香と品格をまとって、思わず見惚れてしまうほど美しい。
 そんな彼女を会場にいる人々が放っておくはずもなく、アリアの周りには次々に人がやってくる。

(ふふふふ、驚いてる。驚いて、呆れているわね、ロイ様! だって、皇太子を差し置いて、私ガンガン目立っているもの!!)

 そんな風に会場を制しながらアリアはロイをチラ見して、内心でドヤる。
 ここ、帝国では女性は一歩下がり夫を立てる事を良しとする風習が強い。
 女性が表に立ったり、前に出ることはもちろん、政治、経済の話に首を突っ込むなんて許されず、はしたないとまで言われる。
 それを今、アリアは積極的にやっている。
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