人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
(これで、私は皇太子妃としてもいい顔をされないはずだわ。ロイ様に有利なように外交を持っていきつつ、私がこの国で最も嫌われるタイプの女としてロイ様にアピールができる! 我ながらナイスなアイデアだわ)

 ただ黙ってロイの隣で微笑んで、何も分からないフリをして、可愛く可憐な皇太子妃としてそこにいれば、ロイにもこの国にも自分は受け入れられただろう。
 きっと、今ロイの目には生意気で気に食わない女として映っているはずだ。現在進行系で好感度が下がり嫌われている。そう考えると胸が軋む。
 だけど、今世はロイと離婚し、この物語から退場するのだ。再び首を刎ねられるなど御免だし、もう自分を偽ったりしない。
 アリアのその淡いピンク色の目には、自力で立とうとする1人の女性の強い意志が宿っていた。

 次から次に話しかけられるアリアはそれらすべてを上手く捌いていく。
 自身の離婚のために動いているアリアだが、その事に必死すぎて自身の隣にいる皇太子が自分に向ける視線の意味に彼女は気づいていなかった。
 
「姫の聡明さには本当に驚かされるな。教師達が絶賛するはずだ」

 人が捌けたタイミングでクスッと隣から声が落ちてきた。
 ロイの方を見ればその琥珀色の瞳は面白いものでも見るかのように笑っている。 
 そんなロイを見て、アリアは息を呑む。
 おかしい。何故彼は今、こんなにも感情の乗った視線を自分に寄越すのかと。
 普段のロイなら、キラキラした笑顔で全ての感情を覆い尽くしてしまい、決して内心を悟らせるような視線を寄越したりしないのに、一体どうしてしまったというのか?

「殿下、あなたは……」

 一体、今何を考えているの? とアリアが問いかける前に、

「キャー」

 甲高いいくつもの悲鳴に会場が騒然となり話が中断される。
 アリアたちは騒ぎの中心に目を向ける。そこには大きな白い虎の姿をした魔獣がいた。

「魔獣が、なぜこんなところに……? とにかく、姫は安全なところにお逃げください」

 そうアリアに声をかけるとロイは魔獣のいる騒ぎの中心へと走って行った。
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