人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
 1回目の人生を生きたアリアは、ただひたすらにロイからの愛を求めた。誰かを害してまで手に入れようともがくなんて、愚かな事だったと今なら分かる。そんな事をしたって、振り向いてもらえるわけもなかったのに。

「ロイ様は、素晴らしい皇太子だと思います。私には、本当に勿体ないほどに」

 帝国で暮らす民のために、自ら前線で剣を取り、必要であれば冷徹な決断も下し、その結果を全部自分で背負って立つロイは、どんな重圧にも困難にも屈しないで、顔を上げて立ち向かって行くのだ。
 1回目の人生でも、2回目の人生でも、そんな彼が好きだった。
 ヒーローなのだ。物語の中の皇子様なのだから当然なのかもしれないけれど。

「お父様とお母様は政略結婚ですが、とても仲が良いですよね。お母様が言っていました。政略結婚ではあったけれど、同じ時間を過ごす中で何度も何度もお互いの考えや思いを交わして、恋をしたんだって。お姉様達もそう。素敵な夫婦です。そうあるべきだったんだって、ピッタリはまるみたいな。私も、ロイ様とそんな風になりたかった……けど、無理なのです」

 だって、この物語で彼にピッタリ当てはまる運命の相手は、ヒロインのヒナ以外あり得ないのだから。
 最初からそうと決まっているみたいに、生まれも常識も世界も超えて、愛と言う名の魔法でロイとヒナが結ばれるのが運命ならば、そこに自分が入り込む隙間なんてありはしないのだ。

「ロイ様には、ロイ様の隣に立つに相応しい方が必ず現れますわ。ロイ様には、愛に溢れた生活を送って欲しい。だから、私はなるべく早く離婚しなくてはならないのです」

 それがきっと、自分がロイのために、そしてヒナのためにできる一番のことだから。
 そんなアリアの話をじっと聞いていたフレデリカはアリアの額にデコピンを喰らわすとびしっと指を立ててアリアに語る。

「いい、アリア。あなたは昔から少し夢見がちなところがあるけれど、夫婦っていうのは外から見ただけじゃ分からないことも沢山よ。運命の恋? 真実の愛? そんなものでどうにかなるなら誰も苦労しないわよ! 人間なんて、自分の気持ちですら分かってないことが多いんだから。仲良くしたければ努力あるのみ! お互いにね」

 そう言ってフレデリカは愛おしそうにハデスに視線を寄越す。そこには揺らがない確かな信頼があった。

「でも、ま。うちの大事な妹が、ロイ様の事を信じられないから別れたいと言うのなら、協力するわ。夫婦としての信頼関係の築けない相手と一緒にいるなんて時間の無駄だし」

 お兄様たちの手腕なら帝国とキルリアの外交問題はどうとでもなるでしょうしねとフレデリカはあっさり請け負う。

「……お姉様、よろしいのですか?」

「あなたが荊姫まで持ち出すなんて相当でしょ? 我慢などせず、全部曝け出してしまえばいいわ。アリアらしくね」

 ふふっととても綺麗に微笑んだフレデリカは、

「忘れないで、アリア。あなたがどこにいても、アリアは私の大切な妹で、私はカッコいい荊姫のファンだと言う事を。だから、協力してあげる」

 そう言ってアリアに離婚作戦の協力を約束してくれた。
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