人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
「もちろん、ダーちゃんも協力してくれるわよね? アリアは最愛の妻の命の恩人だもの」

 フレデリカはハデスにもアリアの離婚に協力するよう要請する。

「……フレデリカがそう望むなら。まぁ、可能な範囲だが」

 楽しそうな色に染まる空色の瞳をじっと見つめたハデスは、その真意を図るように少し考えそう答えた。
 2人の返事にアリアはぱぁぁっと表情を明るくさせる。
 白虎を討伐してロイの見せ場を奪って嫌われる作戦は失敗したけれど、フレデリカとハデスが味方になってくれるならこれほど心強いことはないとアリアは気を取り直す。
 大丈夫、ヒナが来るまであと1年もあるのだ。きっと今世は物語から退場できると、アリアは記憶を取り戻してから初めて希望が持てた。

「それで早速だけど、アリアは私達に何かして欲しい事があるのかしら?」

 空色の瞳に問われたアリアは魔剣を元のサイズに戻し、少し考えて願い出る。

「では、2つ程。1つ目、このフェンリルの討伐はハデス様の手柄として頂けますか? 荊姫のネタバレは派手に印象付けたいので」

 これから先魔獣討伐の機会は他にも巡ってくるはずだ。離縁を切り出されるために、できればロイの目の前で派手に立ち回って、皇太子妃に相応しくないと思われたい。

「2つ目、ハデス様にお願いですが軍事国家ウィーリアの王として、ロイ様とお話しする機会を狩猟大会中に設けて頂けませんか? 私に頼まれたと言う事は内密で」

 そしてもう1つ離婚のために大事なのは、アリアの利用価値を失くす事。今後のためにロイが一番重要と考えているウィーリアとの関係が良好に築ければ、アリアとの離婚に応じやすくなるはずだ。

「どちらも構わないが、皇太子と話した所で帝国と仕事するとは約束できんぞ」

「構いません。そちらの国の事情もあるでしょうし、ロイ様がハデス様のお眼鏡に適わなければそれまでです」

 だが、きっと上手く同盟関係が結べるようになるはずだ。
 時期は大分あとになるが、1回目の人生の時もロイはハデスの信頼を得て、ウィーリアと対等な関係を築き、ウィーリアから最新兵器の提供を受け魔獣対策に取り組んだのだから。
 これで、自分の担う役目は潰せるとアリアはほっと胸を撫で下ろした。

「ところでアリアちゃん気になっていたんだが、その腕というか肩、脱臼してるだろ」

「ええーー!? そうなの、アリア?」

 アリアがあまりに平然としていたのでフレデリカは驚きの余り声を上げる。

「あ、はい。無理矢理抜いたので。実はもうそろそろ痛みが限界です」

 動かない左腕を見ながら、さてこの後どうしようかとアリアは深いため息をついた。
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